南米王者サントス、クラブ世界一への決意=ブラジルでの入念な準備を経て来日

大野美夏

11月からクラブW杯に向けて準備開始

クラブW杯のため来日した南米王者・サントスのネイマール(中央)ら=中部国際空港 【写真:AP/アフロ】

 クラブワールドカップ(W杯)に臨む南米王者サントスはバルセロナよりも一足早く、8日朝に来日。世界制覇に向け、ブラジルの名門クラブに抜かりはない。サントスの初戦にあたる準決勝が行われるのは14日、それよりも1週間ほど早く日本に入り、しっかりと調整して試合に臨む構えだ。チャンピオンズリーグ、レアル・マドリーとの“エル・クラシコ(伝統の一戦)”とハードスケジュールが続くバルセロナとは実に対照的である。

 サントスの本気度がうかがいしれるのは、現地入りの早さだけではない。クラブW杯への準備は11月からすでに始まっていたのだ。今季、サントスはブラジル全国選手権で中位に甘んじ、早々と優勝争いから脱落していた。しかも今年はコパ・リベルタドーレスで優勝しており、来季の出場権をすでに獲得しているため、上位進出を逃しても問題はない。リーグ戦では2部に落ちさえしなければOK。つまり、無理をする必要はない。この時点でフォーカスはクラブW杯一点に向けられていた。

 それが表面化したのは11月13日、残り5試合となったリーグ戦の第34節でのこと。サンパウロから飛行機で4時間かかるセアラ州フォルタレーザで行われたアウエー戦で、サントスは主力選手を温存し、リザーブ組で戦った。相手のセアラは降格ゾーンにいる格下であり、控え中心でも勝てると判断したのだろう。結果、サントスはDFブルーノ・アギアルの2得点などで3−2と勝利した。

 サントスはコパ・リベルタドーレス終盤戦でも主力選手を温存しながら勝ち抜いたケースがあり、この作戦をしばしば利用する。リザーブ組をあてられた対戦チームからは不満が噴出するが、物事に優先順位をつけるという意味から、ブラジルでは大きな議論にはなっていない。ハードスケジュールを乗り切るための合理的な考えは、ファンの間でも浸透している。

 クラブW杯への壮行試合となったのは11月27日の第37節、ホームで行われたバイーア戦。リーグ戦は最終節の1試合をまだ残していたが、クラブW杯出場組にとっては国内での最後の調整の場となった。サントスはエース、ネイマールのゴールで1−0と白星を飾り、日本行きに弾みをつけた。なお、12月4日の最終節にはスタメンクラスが軒並み欠場したが、元ブラジル代表MFエラーノは10月からけがで戦線離脱していたため、試合勘を取り戻すべく出場している。

 今季のサントスはコパ・リベルタドーレスとの掛け持ちもあり、ブラジル全国選手権でふるわず最終的に10位に終わった。それでもネイマールが最優秀選手に選ばれ、ボルジェスは23ゴールで得点王に輝くなど、要所での活躍が光った。

サンパウロ出発から4日、フランクフルト経由で来日

 サントスは今年1年間で75試合(サンパウロ州選手権、コパ・リベルタドーレス、全国選手権)を戦ってきた。一方、クラブW杯での最大のライバル、バルセロナはシーズン開幕から約3カ月とコンディションは上向きにある。この差は大きい。疲労をため、体力が低下した状態ではバルセロナにかなうわけがない。リーグ戦の終盤で主力選手を温存したように、フィジカルの回復を目下の最優先事項として、調整を進めてきた。それは日本への移動にも当てはまる。

 12月5日、チームはルフトハンザ航空でドイツ・フランクフルトに向けて出発。到着後はフランクフルトに24時間滞在した。ブラジルから直接日本に飛んで疲れをためるよりも、中継地点のフランクフルトで休養をとること、さらに夏から冬という気候の変化への順応という狙いがあったようだ。これまでブラジル勢が前身のトヨタカップ、クラブW杯に出場する際、ストップオーバーするクラブはなかった。

 もっとも、フランクフルトに滞在する理由は、選手のコンディションを最優先してというわけではなさそうだ。実はムリシー・ラマーリョ監督は椎間板ヘルニアを患っており、長時間立っていることも、交通移動も厳しい状態にある。飛行機の移動だけで24時間以上、さらに前後の乗り換え時間などを合わせると、負担はあまりにも大きい。ラマーリョ監督の健康が第一の理由かもしれない。フランクフルト滞在中、選手たちはジムで軽く汗を流し、7日に再び出発。そして8日朝、サンパウロから4日をかけてサントスはついに決戦の地、日本に到着した。

 最後に、サントスの日本向けプロモーションについても触れておこう。クラブは今回の来日にあたって、日本語での公式サイトを開設している。さらに、ネイマール、エラーノ、かつてジュビロ磐田でプレーしたエンリケら選手が日本語であいさつ、自己紹介している動画をYouTubeで流すなど、話題作りに積極的だ。日本でのバルセロナ人気が高いと見たのか、負けじと日本のファン獲得に力を入れている。

<了>
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著者プロフィール

ブラジル・サンパウロ在住。サッカー専門誌やスポーツ総合誌などで執筆、翻訳に携わり、スポーツ新聞の通信員も務める。ブラジルのサッカー情報を日本に届けるべく、精力的に取材活動を行っている。特に最近は選手育成に注目している。忘れられない思い出は、2002年W杯でのブラジル優勝の瞬間と1999年リベルタドーレス杯決勝戦、ゴール横でパルメイラスの優勝の瞬間に立ち会ったこと。著書に「彼らのルーツ、 ブラジル・アルゼンチンのサッカー選手の少年時代」(実業之日本社/藤坂ガルシア千鶴氏との共著)がある。

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