大津の勝ち越し点を呼び込んだ4つのファインプレー=U−22日本 2−1 U−22シリア

小澤一郎

シリアを破り、グループCで単独首位に

日本は3連勝を飾るとともに、勝ち点を9に伸ばしグループCで単独首位に立った 【Getty Images】

 勝ち点6同士の戦いで大一番になる――前日会見でU−22日本代表の関塚隆監督がこう語ったシリアとの首位決戦。日本は前半終了間際に濱田水輝が頭で押し込み先制すると、後半に一度はシリアに追いつかれるも、86分の大津祐樹のゴールで2−1と突き放した。貴重な勝ち点3獲得で3連勝を飾るとともに、勝ち点9の日本はグループCで単独首位に立った。

 同じく試合前日、山田直輝は「結果的にこの2チームという感じなんで、絶対に負けられない。しっかり勝ち点3を取って次はアウエーでまたシリアなんで、もう勝てないなっていう印象を与えられたら」と、勝利とともに2月5日に予定されているシリアとのアウエーゲームに向けて、内容面での“圧倒”も目標に掲げた。
 結果として、日本は苦しいながらもホームで勝利を収めることができたが、シリアのハンカン監督が「勝つことに近いプレーができた」と総括したように、内容は互角とも呼べるものだった。次節のシリアとのアウエーゲームが、もうひとつの“大一番”となりそうだ。

 さて、この日の日本のスタメンはGK権田修一、DF右から酒井宏樹、鈴木大輔、濱田、比嘉祐介、ボランチは山口螢と扇原貴宏、2列目右から東慶悟、山田、大津、1トップに大迫勇也という「1−4−2−3−1」の布陣。22日に行われたアウエーでのバーレーン戦とほぼ同じスタメンで、唯一の変更はボランチの山本康裕に代わって山口が入ったことだった。

 キックオフからシリアに押し込まれる場面が何度かあり、開始5分にフリーキックからヒヤッとするピンチもあった。だが、日本は最終ラインから素早くパスを回してボールポゼッションの時間を高めたことで、徐々に試合の主導権を握る。90分を通しての日本のボール支配率は57.9%だったが、キックオフから15分までの支配率は63.4%と15分刻みのデータで最も高い数字。試合の入り方のみならず、主導権争いで優位に立てた要因は、球際やルーズボールに対するアグレッシブさにあったとみる。

 関塚監督もこの点への評価は高く、「球際は非常に強くなってきているというか、勇気を持っていけるようになっているなと思っています。本当に予選を勝ち抜いていく戦いというのはこういうものだと。1つひとつですけれども、積み上がってきているのではないかと思います」と語る。選手個人で見ると、大津と扇原2人の球際への意識と成長が目立っていたように思う。大津は日々の練習から激しいプレー環境にあるドイツでの経験が、扇原はJリーグの試合に出場することによる試合経験が球際の強さを下支えしている。

“うまい選手”が兼ね備えつつある力強さ

 彼らのようにドリブル、球さばきに長けた“うまい選手”が力強さを兼ね備えてきたことは、日本の育成にとって非常に好材料だ。世界のみならず、アジアで勝ち抜くために必要な選手はうまさと強さを兼ね備えた“戦える選手”であり、球際での強さやルーズボールの処理は立派な技術の1つ。そこから派生して、特に後方の選手が「足を置いてボールを奪う」技術を身につけ始めている。

 6月に行われた2次予選のクウェート戦や、オーストラリア(6月1日)、エジプト(8月10日)との親善試合において、日本の選手たちは球際の勝負で足先を出して、ボール争いに敗れる場面が多かった。だが今は、ボールの軌道を読んで足を置いてボールを止める奪い方や、相手よりも早く身を投げ出すスライディングを用いて球際で勝てるようになってきた。
 少し前までは試合勘のなさから軽いプレーが目立った濱田、山口といった選手も軽いプレーは見られなくなった。そういう意味でも、所属クラブでのプレー、そして代表での厳しいアジアでの戦いというのは飛躍的に選手を成長させるものだと実感する。

 バーレーン戦ではアウエーでピッチコンディションが悪いということで、リスク回避から日本は最終ラインからセーフティーにボールを大きく蹴り出していった。だが、このシリア戦では敵陣、アタッキングサードまでうまく運べる形も何度かあった。その要因として大きかったのが、ボランチの関係性だ。
 山口が「僕がアンカーというか1枚残って、直輝(山田)とタカ(扇原)で相手のボランチにプレスをかけるという感じだった」と説明した通り、この日はシリアの10番(アルスマ)を警戒して、山口がアンカー、扇原がゲームメークという役割が明確で、マイボール時のボランチの関係が縦関係になることが多かった。また、山口が10番を挟み込む形でディフェンスラインと近い距離でプレーした分、扇原はセカンドボールを拾う意識で守備時のポジション取りを行っていた。

 ただ、前半に敵陣やアタッキングサードにうまくボールを運びながらも、決定機を作れなかった点は課題として残った。関塚監督は「もう少しボールを運べる能力を上げていけば、もっとゲームを支配できるのかなと」分析したが、個人的には“運ぶ能力”というよりも“運び方”に問題があるように思う。
 というのも、日本の前進というのはボールのみの前進で、人やラインの連動が少ない。関塚ジャパンは“守備ありき”の意識が高く、今回のシリアは2トップであることに加え、相手の10番に高さと強さがあったことで、意識のみならず人数も後方にかけていた。攻撃時においてもサイドバックの片方が残り、センターバックのカバーをするという約束事が徹底されている。そのため、ボールを回しながら相手を崩すときの攻撃の枚数は不足気味となる。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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