大津の勝ち越し点を呼び込んだ4つのファインプレー=U−22日本 2−1 U−22シリア

小澤一郎

ボールポゼッションの目的は“押し込むこと”

左サイドを突破しクロスを上げた比嘉(右)と勝ち越しゴールを決めた大津(中央) 【Getty Images】

 個人的な意見ではあるが、ボールポゼッションの究極的な目的は“ボールを持つこと”ではなく、“押し込むこと”にあると考えている。飛躍した例えにはなるが、バルセロナのようにボールを持ちながら、運びながら全体のラインと各自のポジションを上げ、敵陣深くに押し込む状態を作れば、たとえボールを失ったとしても素早く複数人で囲んで奪い返す波状攻撃が可能となる。攻撃することによって、いい守備を実現できるのだ。ボール支配をゲーム支配につなげるためには、押し込むボールポゼッションをして、いいボールの失い方をする必要がある。だが、今の日本の攻撃は後方の選手がポジションをそれほど上げないため、単発に終わることが多い。

 カウンターはカウンターで必要な攻撃であり、この日も前半から見られたように、大迫が左サイドに流れてボールを受け、そこから素早く攻撃する精度は上げていく必要がある。とはいえ、アジアでの戦いにおいては“日本がボールを持つ”という前提での戦い方、ゲーム支配の仕方についても精度を上げなければならない。そこを突き詰めなければ、前半のようにいいリズムでボールを回しながら決定機がない状態、決定機を演出するのは個人の突破頼みという状況に陥ってしまう。

 日本が1−0で折り返した後半は、シリアが得点を狙って前掛かりに出てきたということもあり、ピンチも増えたが逆にスペースを突いてのチャンスもあった。58分と61分には、左サイドで大津からのスルーパスを受けた山田が決定機を作るが、追加点に結びつけることはできず。そして71分のビッグチャンスも逃すと、その4分後に警戒していたFWアルスマに強引な突破から決められ、1−1の同点とされる。しかし、ホームで引き分けるわけにはいかない日本は、シリアが守りに入ったこともあり、そこから両サイドバックが同時にポジションを上げて、厚みのある攻撃を仕掛けるようになる。

 86分の勝ち越し点は、左サイドを突破し見事なクロスを上げた比嘉と、「比嘉からいいボールが来るっていうのは練習の時から分かっていた」と、大外に入り込んだ大津のファインプレーだった。さらに、比嘉の攻撃参加を促すために相手のサイドバックを中寄りに引き出した途中出場の山崎亮平、そして的確なサイドチェンジのロングパスを入れた鈴木のプレーも評価すべきだろう。
 この場面は右サイドからのスローインが起点であり、本来の約束事からすれば、左サイドバックの比嘉はセンターバックの並びで守備バランスを取るポジショニングが求められる。だが、比嘉はスローインが鈴木に入った瞬間に、そのポジションを捨てて攻撃参加を選択。試合展開、スコアの影響が多分にあるとはいえ、2列目のサイドハーフが中に絞り、そこを両サイドバックが使う意識と動きが押し込む攻撃を生み出していた。

視線、意識の先にはロンドンでの戦いが

 この得点シーンのような状況、攻撃をいかに自分たちで能動的に作り出すことができるか――。先ほど指摘した課題だが、関塚ジャパンの長所は「経験しながら成長していくのがわれわれ」と関塚監督が評する勝ちながら課題を1つ1つ解決、成長していく点にある。
 残り4分で勝ち越したことに満足せず、ロスタイムに得たコーナーキックで鈴木と濱田の両センターバックが上がっていった点なども、このチームの精神的な成長を感じさせるシーンだった。鈴木が「迷ったんですけど、やっぱり優位に立ちたいというところはあったので、そこは点を取りにいった」と振り返ったように、球際でのプレーの成長にも見えるアグレッシブな姿勢が、各選手に浸透し始めている。

「実際に選手たちが肌で(感じながら)戦ってみて、これを乗り越えて今度はロンドンのオリンピックで世界を相手にする」

 試合後の会見では、関塚監督からこうした発言も出た。アジアでの戦い、アジア予選突破に集中しながらも、すでに指揮官や選手の視線、意識の先にはロンドンでの世界との戦いがある。日本はこうした高い目標と意識のあるチーム。勝ちながら着実に成長できるチームだからこそ、このシリア戦ではバーレーン戦で出た課題よりも一歩先にある“押し込むポゼッション”について言及した。

 鈴木は次のシリア戦について、「(中東の)ピッチコンディションとかを考えると、守り(の選手)としては堅実に守りたいなというか。引くわけではないですけど、リスクは背負わずに守った方がいいんじゃないか」とイメージを描く。日本ほどピッチコンディションが良くない敵地での大一番だからこそ、多少のリスクを冒した攻撃、ポゼッションによるいい守備、ゲーム支配を実現させてほしい。勝ち点3のみならず、内容を求めるチームに成長したからこそのリクエストだ。

<了>

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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