歴史的一戦へ、未知なる北朝鮮の実情に迫る=チョン・テセ「日本にホームで負けるわけには」
北朝鮮は危険な場所ではない
会場となる金日成競技場。ピッチは人工芝で、天然芝に慣れている日本の選手には不利な条件だ 【写真:アフロ】
だが、第4戦で日本が最終予選進出を決めた一方で、北朝鮮は3次予選敗退が決定してまった。その結果、日本と北朝鮮の一戦は消化試合になってしまい、多少なりとも興味は薄れても仕方のないところだろう。それでも、平壌での決戦に目を背けてはいられない。なぜなら日本代表選手だけでなく、サポーターも含め、多くの日本人が北朝鮮に入国するのは戦後、初めてと言っても過言ではないからだ。
今ではメディアの関心は、スタジアムやホテル、移動方法などの現地情報、さらに渡航自粛や報道制限、サポーターの入国などで、徐々に試合とは関係ない方向へとシフトしつつあるが、これも無理はあるまい。北朝鮮は日本と国交がなく、核開発や拉致問題で日本が経済制裁を科している国である。未知な部分があまりにも多く、情報が少ない。見知らぬ土地や国に行くのに不安になるのは当然のことだ。
だからといって、かの国は本当に渡航を自粛しなければならないほど、危険な場所なのだろうか。答えはノーだ。
わたしが最後に北朝鮮に行ったのは2009年。W杯・南アフリカ大会への出場権を獲得した代表チームを取材するためで、それを含めると計6回、北朝鮮に渡った。しかし、一度も身の危険を感じることはなかった。そんな過去の経験を頼りに、いくつかの情報をここに記しておきたい。
報道陣を制限した理由
北朝鮮サッカー協会副書記長と在日本朝鮮人蹴球協会理事長を兼務するリ・ガンホン氏は、こう語る。
「この競技場に訪れる人民を見て、サッカー関係者たちは“5万人の監督”と表現します。それくらいサッカーフリークが多く、専門家のように見る目の肥えた人も多い。勝利すれば称賛されるし、負ければやじが飛ぶこともあります。試合会場が金日成競技場ということもあり、だからこそ、代表選手は負けられないんです」
その聖地である競技場のピッチに敷かれた芝は、2002年にFIFA(国際サッカー連盟)から無償で提供された人工芝だ。Aマッチ仕様とはいえ、天然芝との違いに戸惑う選手もいるだろう。その点では、人工芝に慣れている北朝鮮選手が有利かもしれない。
次に報道陣の制限についても話しておきたい。今回、訪朝する記者は通信社3人、専門誌2人などの計6人。カメラマンは計4人で、新聞社は1人も認められなかった。北朝鮮サッカー協会は「技術的な理由のため、増やすことは難しい」と通告したというが、これは事実だと思われる。
そもそも、北朝鮮では通信設備に関しては難ありだ。日本からの携帯電話は持ち込めず、持って行ったとしても空港で一時預かりとなる。帰る時に返してもらえるという仕組みだ。パソコンは仕事で持ち込みが可能だが、ホテルでインターネットは使えない。
それでは、報道陣はどのように試合の記事や写真を日本へ送ればいいのか。金日成競技場内には、日本のスタジアムのプレスルームのように充実しているとは言えないが、メディア用の通信設備がある。そこでメールだけは送信できるように準備しているそうだ。今回、報道陣を制限したのは、例えば通信トラブルが起こった場合に、北朝鮮側がそれらを対処しきれないと判断したのかもしれない。ほかにもいろいろなことが考えられるが、本当の制限理由は当局にしか分からない。