歴史的一戦へ、未知なる北朝鮮の実情に迫る=チョン・テセ「日本にホームで負けるわけには」

キム・ミョンウ

北朝鮮は危険な場所ではない

会場となる金日成競技場。ピッチは人工芝で、天然芝に慣れている日本の選手には不利な条件だ 【写真:アフロ】

 ワールドカップ(W杯)・ブラジル大会アジア3次予選の朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)vs.日本の一戦が15日、北朝鮮の首都・平壌で開催される。平壌での日本戦は1989年6月のW杯・イタリア大会1次予選以来22年ぶりとあって、世間の注目度は高い。

 だが、第4戦で日本が最終予選進出を決めた一方で、北朝鮮は3次予選敗退が決定してまった。その結果、日本と北朝鮮の一戦は消化試合になってしまい、多少なりとも興味は薄れても仕方のないところだろう。それでも、平壌での決戦に目を背けてはいられない。なぜなら日本代表選手だけでなく、サポーターも含め、多くの日本人が北朝鮮に入国するのは戦後、初めてと言っても過言ではないからだ。

 今ではメディアの関心は、スタジアムやホテル、移動方法などの現地情報、さらに渡航自粛や報道制限、サポーターの入国などで、徐々に試合とは関係ない方向へとシフトしつつあるが、これも無理はあるまい。北朝鮮は日本と国交がなく、核開発や拉致問題で日本が経済制裁を科している国である。未知な部分があまりにも多く、情報が少ない。見知らぬ土地や国に行くのに不安になるのは当然のことだ。

 だからといって、かの国は本当に渡航を自粛しなければならないほど、危険な場所なのだろうか。答えはノーだ。

 わたしが最後に北朝鮮に行ったのは2009年。W杯・南アフリカ大会への出場権を獲得した代表チームを取材するためで、それを含めると計6回、北朝鮮に渡った。しかし、一度も身の危険を感じることはなかった。そんな過去の経験を頼りに、いくつかの情報をここに記しておきたい。

報道陣を制限した理由

 まずは試合が行われる金日成競技場について。ここは平壌最古の競技場で、日本のスタジアムで例えるなら、国立競技場とイメージすれば分かりやすい。スタジアム名に金日成がついているのは、1945年10月14日に故金日成主席が凱旋(がいせん)演説を行った場所だからである。その後、牡丹峰(モランボン)競技場が建設されたが、1982年4月に改築され、金日成競技場と名を改めた。いわば、北朝鮮選手にとって「聖地」なのだ。

 北朝鮮サッカー協会副書記長と在日本朝鮮人蹴球協会理事長を兼務するリ・ガンホン氏は、こう語る。
「この競技場に訪れる人民を見て、サッカー関係者たちは“5万人の監督”と表現します。それくらいサッカーフリークが多く、専門家のように見る目の肥えた人も多い。勝利すれば称賛されるし、負ければやじが飛ぶこともあります。試合会場が金日成競技場ということもあり、だからこそ、代表選手は負けられないんです」

 その聖地である競技場のピッチに敷かれた芝は、2002年にFIFA(国際サッカー連盟)から無償で提供された人工芝だ。Aマッチ仕様とはいえ、天然芝との違いに戸惑う選手もいるだろう。その点では、人工芝に慣れている北朝鮮選手が有利かもしれない。

 次に報道陣の制限についても話しておきたい。今回、訪朝する記者は通信社3人、専門誌2人などの計6人。カメラマンは計4人で、新聞社は1人も認められなかった。北朝鮮サッカー協会は「技術的な理由のため、増やすことは難しい」と通告したというが、これは事実だと思われる。
 
 そもそも、北朝鮮では通信設備に関しては難ありだ。日本からの携帯電話は持ち込めず、持って行ったとしても空港で一時預かりとなる。帰る時に返してもらえるという仕組みだ。パソコンは仕事で持ち込みが可能だが、ホテルでインターネットは使えない。

 それでは、報道陣はどのように試合の記事や写真を日本へ送ればいいのか。金日成競技場内には、日本のスタジアムのプレスルームのように充実しているとは言えないが、メディア用の通信設備がある。そこでメールだけは送信できるように準備しているそうだ。今回、報道陣を制限したのは、例えば通信トラブルが起こった場合に、北朝鮮側がそれらを対処しきれないと判断したのかもしれない。ほかにもいろいろなことが考えられるが、本当の制限理由は当局にしか分からない。

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著者プロフィール

1977年、大阪府生まれの在日コリアン3世。フリーライター。朝鮮大学校外国語学部卒。朝鮮新報社記者時代に幅広い分野のスポーツ取材をこなす。その後、ライターとして活動を開始し、主に韓国、北朝鮮のサッカー、コリアン選手らを取材。南アフリカW杯前には平壌に入り、代表チームや関係者らを取材した。2011年からゴルフ取材も開始。イ・ボミら韓国人選手と親交があり、韓国ゴルフ事情に精通している。

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