歴史的一戦へ、未知なる北朝鮮の実情に迫る=チョン・テセ「日本にホームで負けるわけには」

キム・ミョンウ

日の丸掲揚と君が代斉唱は普段通りに

予選敗退は決まっているが、「ホームで日本に負けるわけにはいかない」とチョン・テセ(白)は意気込んでいる 【写真は共同】

 次はホテルについて。日本代表が寝泊まりすると予想されるのが「特級」の高麗ホテルで、外国人観光客がよく利用する。テレビは海外放送も見られて、NHK放送もちゃんと映る。日本のホテルと変わりなく快適に過ごせるだろう。

 一方、報道陣が宿泊すると思われるのが、羊角島国際ホテル。こちらも格付けでは「特級」なので、居心地は良い。ただ、報道陣はスタジアムとホテルのみの移動になると予想される。その理由として、海外メディアに関しては特別な取材以外、外出の際に街の様子を撮影することを禁止しているからだ。

 わたしが09年に北朝鮮代表の取材に行った時、普段の街の風景を撮ることをかなり制限された経験がある。このときは、正直納得がいかなかったが、従うしかなかった。今回、新聞社に許可が下りなかったのも、試合以外のことをネタにするメディアが現れるのを想定してのことだろう。

 一方、ツアーなどで入国する日本人サポーターが約150人いるとされているが、試合観戦以外に観光も用意されていると聞く。故金日成主席の銅像や主体思想塔など、基本的には市内の建造物巡りになるだろう。土産話にはなるので、そこはぜひ楽しんでもらいたいところだ。

 また、当初は北朝鮮側が日の丸掲揚と君が代斉唱も難色を示すと思われたが、これについてはFIFAの規定に沿った形で普段通りに行われる。ただし、横断幕や鳴り物は禁止された。北朝鮮国民の感情を逆なでしかねないとの判断だと思われるが、日本代表サポーターの声援や応援の形を知るいい機会だっただけに、個人的には非常に残念でならない。

日本にだけは負けられない

 さて、肝心の試合だが、いくら消化試合とはいえ、北朝鮮のモチベーションは下がってはいない。
 リ・ガンホンは言う。
「相手はアジアナンバーワンの日本。予選敗退が決まり、消化試合となりましたが、朝鮮代表が手を抜くことは絶対にありません。ホームで日本を相手に無様な試合を見せるわけにはいきませんから」

 3次予選の初戦で日本に0−1で敗れた北朝鮮は、その後ホームでの2連戦で、タジキスタンに1−0で勝利したものの、ウズベキスタンに0−1と敗北。さらに、アウエーでもウズベキスタンに敗れて予選敗退が決まった。2大会連続となるW杯出場の望みは断たれたが、日本にだけには負けられないというのだ。
 そのため北朝鮮は、前回の日本戦よりも攻撃的な布陣で臨むだろう。北朝鮮は4−4−2のフォーメーションを駆使し、その2トップにボーフムのチョン・テセとFCバーゼルのパク・クァンリョンが入ることが予想される。欧州でプレーする2人のゴールに勝利を託す。

 チョン・テセは言う。
「パクとの相性はとても良く、破壊力も十分だと感じています。あとは決めるだけです。消化試合とはいえ、日本戦はとんでもない期待とプレッシャーが掛かっています。死んでもホームで負けるわけにはいきません。日本の高い能力を抑えて点を奪いに行くのは至難の技なので、今回も個の力でゴールを目指します」

 チョン・テセは日本からやって来るサポーターに対する気遣いも忘れてはいなかった。
「今回、サポーターの皆さんは初めて朝鮮に入る方がほとんどだと思いますが、とても良い機会だと感じています。朝鮮の人々と触れ合い、感じたことを日本に帰っていろいろと話してほしいと思います。歴史的な一戦なので、その情熱を見せたいです」

 ホームでは日本に負けられないと、プライドを懸ける北朝鮮に日本はどう挑むのか。22年ぶりの歴史的な一戦だけに、後世に残る好ゲームを期待したい。

<了>

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著者プロフィール

1977年、大阪府生まれの在日コリアン3世。フリーライター。朝鮮大学校外国語学部卒。朝鮮新報社記者時代に幅広い分野のスポーツ取材をこなす。その後、ライターとして活動を開始し、主に韓国、北朝鮮のサッカー、コリアン選手らを取材。南アフリカW杯前には平壌に入り、代表チームや関係者らを取材した。2011年からゴルフ取材も開始。イ・ボミら韓国人選手と親交があり、韓国ゴルフ事情に精通している。

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