サガン鳥栖、13年目のJ1初昇格へ=勝利の方程式とあきらめない気持ち

柚野真也

勝利の方程式は堅守とセットプレー

得点ランキングトップの豊田が鳥栖の攻撃をけん引している 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 8月14日からサガン鳥栖の不敗神話が続いている――。
 10月26日に昇格を争うジェフユナイテッド千葉に勝利し、J2で13戦負けなし。堅守と粘り強さを武器に、“悲願のJ1昇格”に向け、いよいよ6試合を残すだけとなった。

 今オフは飯尾和也(横浜FC)に日高拓磨(コンサドーレ札幌)、衛藤裕(徳島ヴォルティス)と、これまでチームの屋台骨を支えた中心選手が移籍した。岡本知剛や國吉貴博ら即戦力を補強したとはいえ、タレント力はJ2のトップレベルとは言い難いものだった。それゆえ、ユン・ジョンファン新監督は、「目の前の試合に集中するだけ」とイレブンを鼓舞してきた。その成果が、10月16日に行われた第31節の札幌戦を皮切りに、カターレ富山戦をはさんでFC東京、千葉といったライバルチームとの大一番で表れた。負けが許されない直接対決で2勝1分けと勝ち越しに成功した要因は、たくましい精神力だった。

 対戦相手の鳥栖評でよく出てくるのは、「粘り強く、守りが固い」という言葉だ。今季2度対戦して1分け1敗の大分トリニータの田坂和昭監督は、鳥栖の強さをこう語る。
「2試合ともどちらが勝ってもおかしくない試合だった。(1度目の対決は試合終了間際に2失点して逆転負け。2度目はスコアレスドロー)。鳥栖は最後まであきらめない強い気持ちと失点しない守備がある。これが鳥栖のストロングポイントだと思います」

 鳥栖は全選手の守備意識が高い。前線からのハードワークに加え、ディフェンスラインを高く設定すれば大崩れすることはない。“守備を中心としたサッカー”を実践している。昇格を争っているチームに比べて個の能力は見劣りするだけに、何で対抗すればよいか全員が理解しているのだ。「鳥栖のサッカーはディフェンスありきです。守りをしっかり固めた上でゴールを目指す」(豊田陽平)と、勝ちパターンにつながる方程式が確立している。

 宮沢正史(大分)は、「負けないサッカーができている。前線には点の取れる選手がいるし、リスタートから得点できるのが強み」と分析する。千葉戦を振り返れば、完全に試合を支配されながらも球際で粘り、焦れずに勝機を引き寄せ、セットプレーから得点する必勝パターンで勝ち点3をものにした。
 フリーキック(FK)やコーナーキック(CK)だけでなく、藤田直之のロングスローも強烈な武器になっている。もはやスローインの領域を超え、球筋はFKやCKのそれであり、ゴール前に上がるたびに豊田、早坂良太、キム・ビョンスクといった攻撃陣に加え、ヨ・ソンへ、木谷公亮、磯崎敬太ら高さのあるDF陣がゴール前へと殺到する。相手チームとしてはゴール前近くでスローインを許すたびに、嫌なプレッシャーを感じているようだ。

 今後、シビアな戦いが予想される中、勝負を決められるパターンやストライカーがいるかどうかも試合の分かれ目になるはず。その点で言えば、リスタートから得点でき、J2得点ランキングトップの豊田が着実に得点を重ねているのは好材料だ。

己のスタイルを貫きJ1へ

 6試合を残し2位。首位のFC東京と3位の札幌との差はそれぞれ4と、詰まり過ぎず離れ過ぎてもいない状況も、鳥栖にとって追い風だ。山形で昇格を経験している豊田に気負いはない。
「僕らはどこのチームとやっても、そんなに差がないことを認識しているので、簡単に勝てるとは思っていません。だから、どこと対戦してもやりにくいということもありませんし、逆におごったり油断したりすることもない。自分たちがやるべきことをやって、結果がついてくることを信じてやっていきたいです」

 33歳でチーム最年長の木谷も同じ考えだ。「昇格のことを考えるのはまだ先。最終節までもつれると思うし、そこまで全部勝つつもりでいる。去年もチャンスがあったのに途中で失速してしまった。チームとしても個人としても足りないところがあった。今年は、その経験が生きていると思っています。例えば連敗しないとか。そういう、今年うまくいっているところをやり抜くことが一番必要でしょうね」

 ライバルたちが下位チームに勝ち点を取りこぼしている中、鳥栖だけは着実に勝ち点を伸ばしている。チーム全体に浮かれた様子はない。個々が自らの仕事を完遂し、攻守にわたり局面における勝敗に異常なまでの執念を見せる。その確固たる自信の集合体が、鳥栖のスタイルであって強みなのだ。とあるスタッフは「試合を重ねるごとに、選手たちは自信をつけている」と話していたが、さもありなんと思えてくる。

 ネガティブな面や課題はいくらでも指摘できる。1999年にJ2が創設されて10チームでスタートしたが、その中で鳥栖だけJ1を経験したことがない。最終節まで昇格争いを経験したこともない。だが、鳥栖はJ1への扉をたたく挑戦者である。挑戦者は臆することなく堂々と、己のスタイルを貫けばいい。
 最後にモノを言うのは「あきらめない気持ち」だ。最終節まで気持ちで相手を上回り、目の前の試合に集中する今季の鳥栖は、昇格へ有利な立場にあることは疑いようもない。あとは、最後の詰めのみだ。

<了>
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1974年生まれ。大分市出身のスポーツライターで、プロ、アマ問わず、あらゆるスポーツを幅広く取材する。現在は『オーエス大分スポーツ(https://os-oita.com)』で編集長を務める傍ら、新聞や雑誌、ウェブなど各媒体で執筆する。一般社団法人日本スポーツプレス所属。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント