イチロー「なぜか晴れやか」=新スタイルを模索した1年

木本大志

200安打と3割を逃してシーズン終了

今季最後の試合を終え笑顔を見せるイチロー。連続200安打は途切れたが「なぜか晴れやか」と穏やかに語った 【写真は共同】

 マリナーズの最終戦。同じ日、東海岸では、プレーオフのワイルドカードを決める戦いが行われており、ヤンキースを相手に戦っていたレイズが9回2死から同点に追いつき、延長12回にサヨナラ勝ち。

 それはちょうど、ボルティモアでレッドソックスがサヨナラ負けを喫した3分後のことで、レイズとオリオールズが得点するたびにセーフコフィールドでは歓声が上がり、目の前の試合はそっちのけだった。

 その“目の前”の試合では、マリナーズが2試合連続、今季16度目の完封負け。最後、マイク・カープが三振に終わると、珍しくシアトルでブーイングが起きている。

 チーム同様、イチローも結局、年間200安打、3割を逃してシーズンの幕を閉じた。
 終盤になって、本人自ら“しょぼい”と漏らした数字は、677打数184安打(2割7分2厘)、5本塁打、47打点、80得点、22二塁打、3三塁打、40盗塁。

 月間打率が3割を超えたのは4月だけで、巻き返しが期待された9月も30安打にとどまり、200安打には16本も届かなかった。

200安打からの解放に「ちょっとほっとしている」

 失望、という言葉が真っ先に浮かんでもおかしくないが、シーズンが終わってイチローは、穏やかな表情で言っている。

「なぜか晴れやかですね」
 “なぜか”晴れやかな意味。解放が理由だった。
「ようやく続けるということに追われることがなくなったので、ちょっとほっとしています」

 そもそも、昨年――10年連続200安打を達成した時点で、「(200安打に関しては)区切りがついていた」と言い、今年は、将来に向けた新しいスタイルを模索した1年でもあったようだ。

「今年はいろいろできる年だったので、もちろん、(200安打を)できなくてもいい年はないですけど、でも一応区切りのところまできたので、いろいろできた年だった。まあ実際、やった」

 試行錯誤の過程で苦しむのは、ある程度想定内。ただ、自らまいた種といえ、200安打と結びつけられるイメージ像に苦しみ、多くが200安打を打って当然と考える風潮については、苦笑しながら言った。

「結構、難しいんすよ、200本って。多分、皆さんが思うよりもちょっと難しいくらい。難しいので、やっぱ特別なんですよ。余裕を持ってできたのは、10回のうち、実質3回ぐらい」

 そして、達成できなかったことには、「寂しいという感じでもない。動揺する感じでもないんですよ」と言い切っている。

「そういう日が来ることを想像すると、ひょっとしたら、すごく動揺する自分が出てくるかなあと思ったんですけど、それはないんですよ。それは多分、難しいと感じてきて、ギリギリのところでやってきた、という自負があるからでしょうね」

今季を犠牲にして模索した打撃

 これを機に、世間からの期待が、「変わったら楽だなと思います」と話すイチローだが、日頃から彼は、「期待される選手でいたい」とも口にする。そこに矛盾があるが、イチローはこう折り合いを付けた。

「その可能性を生み出せる状態でありたいなと思いますね」

 明確に言わないのは、「リスク回避(笑)」だそうだが、“しょぼい”とはいえ、今年も184安打。今年1年を犠牲にして模索した打撃が固まれば、また、200安打を狙える――。その手応えこそが実は、寂しさを打ち消し、どこか晴れやかな気持ちをもたらしているのかもしれない。

 また、解放されたことで、「力を抜いてプレーする。数字とは別のところで、見ている人の気持ちが動いてくれたり、ハッとしてくれたり――」という、ここ数年のテーマを達成できるのではないか。彼の中にそんな期待感もうかがえる。

 巻き返しの1年は来季、日本で踏み出す。試行錯誤をバネにできるかどうか。
 結局イチローは、そうやってファンを巻き込んでいくのかもしれない。

<了>
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