五輪への道が閉ざされた男子日本代表には何が足りなかったのか?=バスケ男子アジア選手権

松原貴実

大きかった田臥の不在と竹内譲のけが

前半戦のチームの戦いに貢献していた譲次だったが、フィリピン戦で痛めたけがが悪化し、最後までコートに立てなかった 【加藤よしお】

 たしかに不運があったことは否めない。最初の不運は司令塔・田臥勇太(リンク栃木)の故障による離脱。ウイスマンHCの目指す日本のプレースタイル、チーム構想の真ん中に位置したのは間違いなく田臥であり、昨年11月のアジア大会(中国・広州)で4位の成績を残したのも田臥の『けん引力』によるところが大きかった。それだけに不在期間がどれだけ長引こうと、その復帰を待つ気持ちが強かったのも無理からぬことかもしれない。だが、結果、『田臥抜き』のチーム作りは遅れた。

 次の不運は田臥に次ぐPG柏木真介(アイシン)の故障。こちらは大会直前のドイツ遠征も辞退してコンディション作りに専念したことで何とか本番には間に合ったが、スタート間もなく太ももに肉離れを起こし戦線離脱を余儀なくされた。
 さらなる不運はフィリピン戦で打撲したあばら骨の状態が悪化し、竹内譲次(日立)がコートに立てなくなったことだ。今大会はスタートから一皮むけたようなアグレッシブなプレーで攻守ともにチームを鼓舞していた竹内譲だけに、その痛手は大きすぎるものだった。

ポイントガードを任された正中(右)は、チームメイトからも認められる活躍ができた 【加藤よしお】

 こうして満を持して臨むべく舞台で、チームの中に微妙なズレが生じてくる。
 柏木に代わって先発出場になったPGの正中岳城(トヨタ自動車)は8月の中南米遠征からチームに参加し、わずか2か月足らずで大役を任されることになった。日が浅いにも関わらず「正中は本当によくやってくれた」(竹内公輔:トヨタ自動車)とチームメイトからは評価されたが、当の本人は「途中から出てチームを勢いづけるのが自分の役割だと思っていたし、その準備はしていたが、スタメンで出てチームのオフェンス、ディフェンスをデザインする準備はしていなかった。自分にはできないと思った」と正直な気持ちを吐露した。

 ならばもう1人のPG石崎巧の起用もあったのではないか? という質問に「石崎は当初から川村(卓也:リンク栃木)をフォローする2番として起用すると決めていた。日本のプレースタイルを貫くためには彼のボールのプッシュ力は今一つだと考えている」と、ウイスマンHC。
 しかし、石崎はもともとゲームコントロールのうまさに定評がある選手であり、09年の東アジア競技大会(香港)で、日本が中国を破った一戦では前から当たる執拗なディフェンスで相手を存分に苦しめた。連戦の大会では相手によって正中と石崎を使い分ける戦い方も有り得たのではないだろうか。それとも今大会の日本チームの構想の中にそういった選択肢はなく、準備もされていなかったということか。

浮かび上がってくるキーワードとは?

キャプテンの網野(右)は、最後まで気持ちが感じられるプレーで戦った 【加藤よしお】

 そういったことを考えながら改めて大会を振り返ると、そこから浮かび上がってくるキーワードは『準備』だ。大黒柱バハラミを前半温存させたイランのスキを逃さず金星を挙げ、決勝戦では最後の最後まで中国を苦しめ抜いたヨルダンは予選ラウンドで日本に敗れたチームである。2次ラウンドではフィリピンにも敗れ、中国にはなんと33点差で大敗している。しかし、イラン戦を制したことで見えない壁を一気に乗り越えたがごとくチームは生まれ変わった。2回目の対戦になったフィリピンとの準決勝では「最初の敗戦を教訓に準備すること」で逆転勝ちに成功し、決勝の中国戦では「自分たちの戦い方を見失わない準備をすること」で優勝まであと一歩と迫った。やるべき準備を怠らず、常に闘争心を忘れないチームに風は吹く。背中を後押しする強い風が吹くことがあるのだ。

 優勝した中国もまたしかり。13000人の観客で埋め尽くされ、圧倒的なホームアドバンテージを持ちながらも決して慢心することはなかった。優勝に向けてしっかり準備を重ねてきたからこそ、準決勝の韓国戦、決勝のヨルダン戦を制することができたのだろう。

 今大会、日本が手を抜いた戦いをしたわけでは決してない。主将の網野友雄(リンク栃木)を筆頭に『気持ち』を感じさせるプレーも随所に見られた。しかし、『準備する』ことが自分のチームの力を信じることにつながるなら、そして、それこそが劣勢を覆す勢いを生むものだとしたら、今回日本に足りなかったのは紛れもなく大会を勝ち抜くための『準備』だった。

<了>

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著者プロフィール

大学時代からライターの仕事を始め、月刊バスケットボールでは創刊時よりレギュラーページを持つ。シーズン中は毎週必ずどこかの試合会場に出没。バスケット以外の分野での執筆も多く、94『赤ちゃんの歌』作詞コンクールでは内閣総理大臣賞受賞。

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