イチロー検証<その1>:ボール球に手を出す確率とストライクゾーンの広がり
広がったストライクゾーンが原因か
ボール球へ手を出す確率が上がったのは、広がったストライクゾーンに左右された可能性も 【Getty Images】
と聞けば、「ストライクゾーンはここ数年、広がっている」と言った。「低めと外にね」。
それは先日、エンゼルスのトリー・ハンターが言っていたのと同じ見立て。ここ数年の投高打低傾向は、薬物時代の終焉と結びつける向きが強いが、ハンターもチャンブリス打撃コーチも、「一因に過ぎない」との見方だった。
裏には、試合時間の短縮を目指すリーグの意向が働いているともされるが、イチローのデータを調べているときにも、主に外角の球において、多少外れていても、ストライクとコールされている球が多かった。
では、本当にストライクゾーンが広がっているのか?
2006年のプレーオフから、PITCHf/xというシステムが導入されたことを受け、現在、ストライクゾーンの研究が進んでいる。それらの記事を読むと、条件によってストライクゾーンが拡張したり、規定通りであったりするようである。
例えば、3−0(3ボール)のときと0−2(2ストライク)のときでは、ストライクゾーンが違うという傾向がはっきりと出ている。違いは、ボーダーラインと呼ばれる、ストライクとも、ボールともいえるようなコースの判定で、3ボールであれば、ストライクとコールされるケースの方が圧倒的に多いよう。
投手によってストライクゾーンの違いも
一つは、捕手のミットが動いたどうかによると、『ベースボール・プロスペクタス』は結論づけており、最初からややストライクゾーンから外れたところに構えていても、そこにズバッとくれば、主審はストライクと判定し、逆にストライクゾーンの外角いっぱいに構えていて、少し外側に外れるとミットも動く。そうすると、ボールと判定される確率が高い、としていた。
話を戻せば、無条件でストライクゾーンが広がったとは言い切れないため、イチローが適応を迫られていた、との推測には無理があるが、ハンターらベテランの感覚も一概に否定できないところ。イチローに限定して何かを証明するなら、ボールを振る確率が日によっても違うので、リバン・ヘルナンデスのような投手との対戦が多かったのかどうか、各投手との対戦をさらに詳しく整理する必要がありそうだ。
複数の要因が絡んだ不振と復調
一方、マルチ安打を連日のように重ねた6月11日からの8試合では、ボールに手を出す確率が33.8%に下がり、ボール球を打って凡打になったのは34打数で8回。ボールを打ってヒットになったのは3度だった。
となると、この前後で、何か大きな修正が加えられたであろうと考えられるが、前出のチャンブリスコーチに聞けば、「特に何か、アドバイスした覚えはない。それだけ違うなら、本人が意識して何かを変えたのだろう」と振り返った。
続けて、冷静にこんな指摘もしている。
「まあ、何か1か所を、ということではないと思う。いろんな試行錯誤があったのだろう。それが分かるのは、おそらく彼だけ。イチローのコーチは、彼自身だから」
それは、監督の見方を発展させたもので、選球眼を含め、何かが狂ったのも、戻ったのも、複数の要素が積み重なり、あるいは絡み合って現象として生じた、という捉え方だ。逃げにも聞こえるが、結局、行き着くところは、そこしかないのかもしれない。
多くの米メディアが主張するように、原因は加齢かもしれないし、前回のコラムで紹介したようにアンラッキーな面があったかもしれないし、あるいは、新しい打撃スタイルを模索した結果かもしれない。それを一つに絞り込むのではなく、それぞれが少しずつ作用した結果と考えた方が、確かに無理がない。きっかけにはなったかもしれないが、ストライクゾーンに左右された、では、1年全体の波を到底説明できないのだ。
さて、イチローが不振の真相を語るとしたらいつか。
そもそも、解決しているのか。
そんな点ではむしろ、イチローは例年よりもファンを巻き込んだと言えるのかもしれない。
<了>
※検証その2に続く