オランダで生まれ変わったキシェンコ=ショウタイム

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イグナショフの二の舞になってしまうのか

オランダで生まれ変わった“美しき死神”キシェンコ 【t.SAKUMA】

 この1年で最も劇的な変化を遂げた70kg級のキックボクサー──それはアルトゥール・キシェンコだろう。
 1年前、キシェンコは絶不調の真っ只中にいた。7月にはRISEで日菜太に完敗。その2カ月後にはK−1ワールドMAX世界トーナメントでモハメド・カマルに敗れた。カマル戦後、納得のいかないキシェンコは猛然と抗議したが、判定が覆ることはなかった。
 ちょうど、その時期だ。「キシェンコは減量に苦しんでいる」という噂を耳にしたのは。確かに70kg級の中でキシェンコはガッシリしている方だ。年齢を積み重ねるにつれ、体重が増えてくるのは仕方のないことだろう。
 その時、私はキシェンコの境遇をアレクセイ・イグナショフのそれと重ね合わせた。
 一時はK−1ヘビー級の次世代を担う逸材と期待されながら、いつの日かイグナショフはモチベーションを失った(あるいは失いかけた)試合を続けて第一線から消えた。その後ニュージーランドに移住してカムバックを果たしたが、かつての勢いを取り戻すまでには至っていない。

 キシェンコはイグナショフの二の舞になってしまうのか。そんなことを思い始めた頃、キシェンコがバダ・ハリやメルビン・マヌーフらが所属するオランダのマイクスジムに移籍したという話が伝わってきた。今後は母国ウクライナではなく、オランダを拠点に活動していくという。日本でもよくあることだが、ジムと何かしらの問題があり、それがファイトに直接影響を及ぼしていたのだろうか。移籍したという話を聞いた時、少なくとも不振の理由は減量苦だけではないように思えた。

ジム移籍でファイトスタイルも大きく変化

 今年3月、キシェンコは10カ月ぶりにIT’S SHOWTIMEのリングに戻ってきた。かつてのウクライナの美男子の面影はどこへやら。その風貌からアイドル的な甘さは消え、若干頬がこけた青年になっていた。
 練習場所が変わった変化は試合開始のゴング直後、すぐに現われた。キシェンコはサウスポーに構えたのだ。これまではずっとオーソドックスで構えていたのに……。完全なコンバーテットサウスポー(右利きのサウスポー)ながら、キシェンコはカウンターのヒザ蹴りや左ストレートを武器に、対戦相手のドラゴにどんどんプレッシャーをかけていく。
 日本でドラゴは70kg級では身体に厚みがあり、なおかつパワーもあるファイターとして知られている。しかし、そのドラゴと比べても、キシェンコは大きく見えた。しかも、今回はスタミナ的にも問題はないようだ。
 それに、この日のキシェンコには切れとパワーが感じられた。ドラゴのガードの上からでもお構いなしに攻撃を加え、ダメージを与えることができたのはそのせいだろう。途中ドラゴが前に出てくる場面もあったが、キシェンコはカウンターで反撃して試合の主導権を渡すことはなかった。

 キシェンコの復活にIT’S SHOWTIMEのサイモン・ルッツ代表は手放しに喜んだ。9月24日、ベルギーで開催される「IT’S SHOWTIME70kg級トーナメント」ベルギー大会の優勝候補を聞くと、キシェンコだと断言した。
「私はキシェンコが普段どういう練習をしているのかをよく見ています。実際3月のドラゴ戦でも従来とは全然違うスタイルで勝っているではないですか。優勝予想にお金をかけようかという話になったら、僕は迷わずキシェンコに賭けようかなと思います」

 トーナメント1回戦では再びドラゴと闘うことが決まった。猪突猛進型のドラゴのことだ。キシェンコ対策を事細かに練るというより、自己のパフォーマンスを高めることに務めてリングに上がってくるだろう。そんなドラゴをキシェンコはどう料理しようとしているのだろうか。“美しき死神”というニックネームがつくきっかけとなった、相手を悶絶させるボディブローか。それとも、今春ドラゴを追い込んだカウンターのヒザ蹴りか。
 順当に勝ち上がれば、準決勝では“宿敵”アンディ・サワーと闘う可能性が高い(過去両者の戦績は1勝1敗)。もうすぐ25歳になるキシェンコにとって、真価の問われるトーナメントになりそうだ。

(テキスト:布施鋼治)

●アルトゥール・キシェンコ
1986年11月14日生マレ(24歳)。ウクライナ共和国出身。身長180センチ。マイクスジム所属。2003年デビュー。プロ戦績53戦43勝(24KO)8敗1分1NC。

■IT’S SHOWTIME番組情報■
〜最強打撃格闘技〜 IT’S SHOWTIME JAPAN 2011・9・24 ブリュッセル大会(ベルギー)
【生中継】 09月24日 (土) 27:55 - 31:00  J sports ESPN
【再放送】 09月25日 (日) 19:00 - 22:00 J sports ESPN
【再放送】 10月10日 (月) 18:00 - 21:00  J SPORTS 3
スペシャルゲスト解説:魔裟斗、 解説:布施鋼治(スポーツライター)  実況:市川勝也

◆◇◆J SPORTSは10月1日よりBS放送開始!◆◇◆
国内最大4チャンネルのスポーツテレビ局、株式会社ジェイ・スポーツ・ブロードキャスティングは、会社設立15年を迎える2011年10月1日に2チャン ネルが、2012年3月1日(予定)にはさらに2チャンネルがBS放送に進出し、BS最大4チャンネルのスポーツテレビ局が誕生いたします。
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これからのJ SPORTSにご期待下さい。

●IT’S SHOWTIME 2011シーズン大会予定
11月12日(土) テネリフェ大会(スペイン)
※ジョルジオ・ペトロシアンの復帰戦や、ダニオ・イルンガの95kg級タイトルマッチなど
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