フランス代表の光と影、監督ブランの苦悩は続く

木村かや子

いまだ弱さの見えるフランス

ブラン監督はルーマニア戦でナスリ(右から2番目)をベンチに残すなど、メンバーを入れ替えたが引き分けに終わった 【写真:PanoramiC/アフロ】

 しかしわたしのボヤキが聞こえたか、9月6日のルーマニア戦で、ブランは大きくメンバーを入れ替える。指揮官は、ナスリをベンチに残してマルタンとカバイエを並べたダブル・プレーメーカーを起用。またリベリーとマルーダの共存がうまくいかないことを受け、リベリーを左に、バルブエナを右に入れる形を採った。
 この興味深い布陣の中で、マルタンもカバイエも何度か良い仕掛けのパスを出し、特にカバイエは試合最大の決定機をつかむなど予想以上の何かを見せたのだが、この変更で新鮮な勢いが加わったかといえば、そうとは言い切れなかった。というのもピッチ・コンディションがあまりに悪すぎ、プレー内容を正確に判断することは不可能だったのである。

 新スタジアムということでまだ芝が根付いていなかったのか、10分もしないうちに古いじゅうたんのようにピッチがめくれ、モグラ穴のような大きな盛り上がりが至るところに出没。選手はボールを蹴り損なう前に芝の小山にひっかかって転び、当然ながら試合内容はかなり貧相になった。残念なことに中央から細かいパスをつなぐのに適した状況ではなく、フランスはサイド攻撃やロングフィードで前に行くことを余儀なくされる。フランスのサイド攻撃に関しても、パスを出すタイミングの遅さや不正確さが芝のせいなのか、能力的なものなのか判断し難かった。

 またこのルーマニア戦では、アビダルを例外に、守備陣のマークミスも目立った。フィリップ・メクセス、アディル・ラミのペアに固執し続けたおかげで、ドメネク時代に延々と定まらなかったセンターバックコンビが固まり始めていたのだが、そのメクセスが4月にヒザの十字靭帯(じんたい)切断という大けがをしてしまう。親善試合では急造のサコ&カブール、カブール&アビダルのペアがきっちり仕事をこなしているように見えたが、アルバニア戦ではミスが目立ち、それもあってルーマニア戦ではラミ&アビダルのペアに。この試合でアビダルは非常に良い守備を見せたが、ラミは全体を見ればまずまずでも、前に行き過ぎてマークをとちり、パスをとちり、ひやひやさせる場面が何度かあった。

 そんなわけで、GKをのぞき、どの部門も調子に波があり、どの部分にもまだもろさが見える、というのがフランス代表の現状なのだ。

絶対に勝たねばならないときがきた

 試合後、「すべてピッチのせいではない」と言ったブラン監督だが、「できればより状態の良いピッチでプレーする自チームを見たかった」とこぼしもした。同感である。マルタンら新しい血の抜てきは興味深かったが、ボールを地面につけてプレーするタイプの選手だけに、まともなピッチで彼らを入れた場合のプレーが見てみたい。また主力が振るわなければ、マルタンのほかにも、ガメロ、メネズら、クラブで調子が良く、意欲的な選手を投入する価値はあるように思える。

 しかし、ルーマニア戦の引き分けのせいで、今、グループD2位のボスニア・ヘルツェゴビナが1ポイント差と背後に迫っており、10月に、ホームでアルバニア、そしてボスニアを迎え撃つフランスは、残り2試合に何としてでも勝たねばならない。勝負の懸かった試合で、大舞台での経験の薄い選手を使う大胆さが、ブランにあるだろうか?

 勝ったとはいえ、2日のアルバニア戦、特に後半の内容は煮えきらないものだった。ルーマニア戦でブランがメンバーを入れ替えたのは、そこに活力を注入する必要性を感じたからに違いない。メンバー入れ替えについて、リスクを犯したと指摘されたブランはこう答えている。
「可能な限りよいチームを作り、ある選手たちにチャンスを与え、競争を持ち込むのが代表監督の仕事なんだ。あるときが来たら、決断を下さなければならない。さもなければ、もう何もせず、ただ好転を待つだけになってしまうだろう」

 GKのロリスは、試合に先立ち「僕らはまだ再建の途中だ。勝利はチームの自信を左右する。そしてその自信は、南アフリカで壊滅した。まだもろさがある。あれから1年しか経っていないんだ……」と漏らしていた。確かに、あのW杯の悪いオーメンはまだどこかに残っている。それだけに、W杯を経験していない新しい選手が、陰りのないエネルギーをもたらしてくれそうな気もするのだが、百戦錬磨のベテランを超えるプレーをする保証はない。これは、難しい賭けだ。

 フランスには、2試合残した時点で1位だったが、結局勝てずにプレーオフに回った、2010年W杯予選の苦い思い出がある。ライバルはいまや、予選最終戦の相手であるボスニア・へルツェゴビナのみ。そしてプレーオフなしの自力の予選突破には、残り試合の双方に勝たねばならない。13試合負けなしというと聞こえがいいが、負けないだけではもはや十分ではないのだ。「あるところまできたら、勝たねばならない」と言ったブランは、そのことを重々承知している。

<了>

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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