元バルサコーチが説く状況把握と判断=「頭の中を鍛える練習こそが大切」

鈴木智之

子供たちに教えるべきことは「勝つための方法」ではない

判断の重要性を訴えるビラは、子供たちに正しくプレーする方法を教えることを第一としている 【イースリー】

――「状況把握」「判断」を鍛えるトレーニングの大切さについて、もう少し具体的にお願いします

 わたしは1つの要素、例えばテクニックだけを教えることはありません。頭のいい選手を育てるためです。わたしが子供たちに伝えることは、いい判断をすること。そして良い実行(プレー)をすること。それができれば、楽しくサッカーをすることができるようになります。

 サッカーを学び、いい判断の下にプレーができるようになれば、試合にも勝てるようになるでしょう。それが「サッカーをうまくプレーする」ということなのです。グラウンドで良いプレーができるようになれば、見に来た人たちもサッカーをより好きになってくれます。ちょうど、今のバルサのサッカーがそのような状況にあると思います。世界中の人々が彼らのプレーを見たいと思っています。映画を見るときも、楽しい作品を見たいと思う人が大半でしょう。サッカーも同じです。

――そのために、気をつけて指導していることはなんですか?

 子供たちに教えるべきことは「勝つための方法」ではありません。大切なのは、正しくプレーする方法を教えることです。それが結果として、観客が楽しんでサッカーを見てくれることにつながるのだと思います。
 スペインでも、子供たちは勝つことだけに関心があり、サッカーを学ぶこと、いいプレーをすることに、意識が向いていない時期がありました。指導者も体が大きい、足が速いなど、うまさよりも「強くて速い」選手を探していました。しかし、それがようやく変わってきました。14歳ぐらいまでのカテゴリーは、選手としての幅を広げることを目指しています。そこでは、サッカーを理解している選手を育てようとしているのです。この年代は、効率よく勝つ方法を身につけるよりも、サッカーを理解し、学習することが大切です。そして、14歳以降は、競争で選ばれた選手がプロになります。

頭の中を鍛えることで選手の判断の質は変わってくる

――トレーニングをするときは、どのような部分をチェックしているのですか?

 例えば、選手がプレーの判断を下さなくてはいけない場面があるとします。解決が難しい局面だったとして、選手がその状況に飛び込んでどうするかを見ています。いい選手は解決方法を探します。もし、そこでできないと感じたら、プレーを変えます。判断を変えて、その場所にとどまり続けようとはしません。逆に悪い選手は、解決できないのに、その場所に居続けようとします。頭の回転が速い選手は、状況に応じて次々にプレーを変えていく。シャビはまさにそのような選手です。パスコースがなければ、ターンをしてドリブルをします。それは状況に応じて、次々に判断を変えているからです。

 ただし、これは専門的なことを知っている監督でないと、見えづらい部分だと思います。多くのチームの監督は、強くて速い、簡単に結果を出すことのできる選手を探していて、頭の回転が速いかどうかまでは見ていません。わたしが提唱するのは、頭の中を鍛えることです。練習を重ねるごとに、選手の判断の質は変わってきます。わたしは選手たちがしっかりとサッカーを理解して、プレーできるようになることを望んでいます。ただ、ボールを蹴ることだけを教えるのではありません。頭の中を鍛える練習こそが大切なのです。

子供たちが楽しくサッカーを学ぶことが将来的な結果につながる

 筆者はジョアン・ビラが5日間にわたって行ったトレーニング、2回の座学と4時間のロングインタビューを経て、彼の指導についての考え、哲学に触れることができた。初日のトレーニングでは、「自分とボールと相手」に対してのみ意識を向ける子供たちが多かったが、トレーニングの回数を重ねるごとに、自分とボールと相手から、「スペースを使う」「仲間がプレーしやすいように動く」といった、サッカーに対する新たな視点を獲得したように見えた。

 もっとも、短期間のトレーニングでそれらが劇的に向上し、サッカー選手としてレベルアップするわけではない。しかし「実行」のトレーニング以外に、「状況把握」や「判断」に働き掛けることで、ほぼ初対面であり、年齢も9〜11歳とバラツキがある子供たちが、少人数のグループとして機能する場面を何度も目にした。また「状況把握」や「判断」の質を高めることで、身体能力に頼らなくても相手より優位にプレーできる場面もあった。筆者は日本の育成年代のトレーニング現場を中心に取材しているが、「実行」に多くの時間を割き、「状況把握」や「判断」に、それほど意識を傾けていない場面を目にすることがある。その意味でも、ジョアン・ビラ氏の提言は価値あるものだと感じた。

 なおインタビューの最後に、彼はこのように述べている。
「スペインは世界的にレベルの高いチームです。それは、ジュニア年代の指導者を手助けしてきたことに要因があると思っています。子供たちの指導を始めて、すぐに結果が出るわけではありません。ですが、少しずつ段階を移行して、子供たちが楽しくサッカーを学ぶことが、将来的な結果につながることを意識してほしいと思います。日本はアジアチャンピオンです。大いなる可能性があると思っています」

指導者向けトレーニングDVD『知のサッカー』

『知のサッカー(Think soccer, express your potential.)』DVD2枚組、21,000円(税込) 【イースリー】

FCバルセロナのカンテラで14年間、名選手を育て続けたジョアン・ビラ。彼が率いる世界的プロ育成者集団「SOCCER SERVICES,SCP」が初めて、日本のために開発したトレーニングDVD。バルサのフィロソフィー(哲学)に、同氏が世界各地で体験した指導法、トレーニングを結集させた独自のメソッド。頭を鍛えるノウハウ、圧倒的な実績。この指導法は、バルサのそれを超えていく可能性がある

『知のサッカー(Think soccer, express your potential.)』
DVD2枚組、21,000円(税込)、U−12世代向けの32の指導メニュー。オリジナル指導書(非売品)付き。スペシャルサイトで先行予約受付中。少年サッカーの情報サイト『サカイク』でも記事連載中

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著者プロフィール

スポーツライター。『サッカークリニック』『コーチユナイテッド』『サカイク』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書に『サッカー少年がみる みる育つ』『C・ロナウドはなぜ5歩さがるのか』『青春サッカー小説 蹴夢』がある。TwitterID:suzukikaku

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