元バルサコーチが説く状況把握と判断=「頭の中を鍛える練習こそが大切」

鈴木智之

CL決勝の舞台にカンテラ出身が7人

元バルサコーチのジョアン・ビラはカンテラでシャビ、プジョルらを指導し、一流選手に育て上げた実績を誇る 【イースリー】

 現在、世界最高のチームはどこか? そう問われたら、多くの人が「バルセロナ」と答えるだろう。メッシ、シャビ、イニエスタを中心に高い技術を持つ選手をそろえ、「ボールを失わないこと」を哲学としたスタイルは、世界中の人々を魅了している。カンテラ(下部組織)出身のグアルディオラが監督就任以降、チャンピオンズリーグ(CL)優勝2回、リーガ・エスパニョーラ3連覇と、結果と内容を両立させ、娯楽性を兼ね備えた現在のバルセロナは、歴史に残るチームとして欧州フットボールシーンの頂点に君臨している。

 バルセロナを語る上で外すことができないのが、カンテラの存在だ。今年5月のCL決勝の舞台に、カンテラ出身の選手は7人いた。バルセロナが指向するサッカーを身体に染み込ませた選手たちが、下部組織出身の監督のもと、同じイメージを共有しながら世界最高レベルの個の能力を発揮する。それこそが、バルセロナの強さの秘訣(ひけつ)にほかならない。

 カンテラ出身者であり、ゲームキャプテンとしてバルセロナの中心を担うのがシャビ・エルナンデスだ。そのシャビをカンテラ時代に指導したジョアン・ビラ氏が日本のU−12年代を対象としたクリニックを行った。13歳のシャビを「グアルディオラの後継者になれる」と見初めた人物が語る「頭の中を鍛えるトレーニングの重要性」とは――。シャビを育てた名伯楽(めいはくらく)が語る、日本の育成年代に向けた提言。本稿はその第2弾である。

30歳のプジョルがさらに向上するために必要だったこと

――前回のインタビューで、あなたはサッカーをする上で大切な要素は3つ(「ペルセプシオン(状況把握)」「デシジョン(判断)」「エヘクシオン(実行)」)だと言っていました。そして日本に限らず、世界中の多くの国が「実行」の練習が多く、実行をするために必要な「状況把握」「判断」のトレーニングがおろそかになっていると

 その通りです。シャビやイニエスタはテクニックに加え、「状況把握」「判断」に優れた選手です。だからこそ、世界トップレベルの選手になったと言えるのではないでしょうか。プジョルにしても同じです。3年前、彼は30歳でした。すでに世界的な名声を手にしており、バルサのキャプテンでもありました。普通の選手であれば、その地位に満足して「オレはなんでも知っているぞ、これ以上学ぶものはない」と思うかもしれません。しかし、彼は違いました。もっとうまくなりたい、もっとサッカー選手として向上したいという強い気持ちを持っていました。そこで、わたしはプジョルに「状況把握」と「判断」こそが、もっと改善できる部分であることを教えました。

 プジョルが欲したのは、自分のプレーを分析することです。そこで、わたしは彼のプレーを分析しました。すると、学ぶことが42項目ありました。そのうちの7つはボールと一緒にやらなければいけないこと。つまり「実行」の部分です。それ以外の35項目は、ボールがないところの動き。すなわち「状況把握」「判断」の部分です。いつ前に行くべきか、いつ後ろに下がるべきか。どこを見て、どのような判断をするのか。その具体的な内容は、スペインの監督たちにも教えました。

「ボールを失わない」ことと「ポジションを失わない」こと

――プジョルのエピソードにも通じる部分はあると思いますが、トレーニングをする上で大切なことは何だと考えていますか?

 戦術的なトレーニングをしっかり行うことです。バルサのように「ボールを失わない」という哲学があるのなら、それに基づいたトレーニングをします。もう1つ大切なのは、選手たちがピッチの中で「ポジションを失わない」ことです。走ることがすべてではありません。やみくもに走ればいいというわけでもありません。それぞれの選手が状況に応じて、適した位置にいること。それが良い攻撃をすることにつながり、裏を返せば良いディフェンスをすることになります。

 守るときは散らばっている選手がひとつの塊(かたまり)のようになる必要があります。反対に、攻撃をするときは広がります。これがポイントです。ただし、それを子供たちに伝えるのはとても難しいことです。なぜなら、子供たちは前へ、前へ進もうとするからです。そこで重要になるのが、これまで話してきた、テクニックと戦術を併せた考え方です。もちろん、基礎的な技術の習得など「実行」のトレーニングも大切ですが、それと同じぐらい「状況把握」「判断」を鍛えるトレーニングも大切なのです。

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著者プロフィール

スポーツライター。『サッカークリニック』『コーチユナイテッド』『サカイク』などに選手育成・指導法の記事を寄稿。著書に『サッカー少年がみる みる育つ』『C・ロナウドはなぜ5歩さがるのか』『青春サッカー小説 蹴夢』がある。TwitterID:suzukikaku

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