原口元気、スーパーサブから先発への挑戦=関塚ジャパンでの正念場となるクウェート戦

元川悦子

2度の決定機を得たが……

スタメン奪取へ結果が求められる原口(右から2人目)。敵地でのクウェート戦は本当の正念場となる 【Getty Images】

 だが試合当日、先発の2列目はやはり、清武・東・山崎の並びだった。大一番を迎えるにあたり、関塚監督は貴重な成功体験であるアジア大会優勝を重視。その時のメンバーを土台にしたいと強く思ったのだろう。控えに回った原口は自らの立場の険しさを思い知ったに違いない。それでも、展開次第では必ず出場機会が巡ってくる。その時、自分に課せられるのはゴールしかない。ベンチに座り、戦況を見つめていた彼は、冷静にそう考えていたはずだ。

 試合の方はご存知の通り、日本が立ち上がりからハイペースで飛ばした。ボールを完全に支配し、まるでハーフコートゲームのような展開に。トップ下の東は周囲を生かしつつ、自らも前線のスペースに次々と飛び出してシュートを放った。バランス感覚に優れた東は、味方を生かすのに長けている。清武とは大分トリニータユース時代から共にプレーしており、お互いを知り尽くしている。山崎やボランチの山村和也との連係も、半年間のU−22代表活動を通じて向上している。直接ゴールにこそ絡まなかったが、現在の関塚ジャパンにとって東が不可欠な選手であることをあらためて印象づけた。

 山崎は左サイドに張りながら中に動いたり、逆サイドへ行ったりと自由自在にプレーしていた。清武の先制点の場面では中央で起点となったし、大迫の3点目の場面もいいタイミングでスルーパスを出した。このような幅広いプレーを、関塚監督は2列目のプレーヤーに求めている。単にスピードや突破力があるだけではダメなのだ。4月から関塚ジャパンに加わったばかりの原口は、“臨機応変なプレー”という部分で少し劣っていると判断されているのかもしれない。

 それでもシナリオ通り、指揮官は「背番号14」をピッチに送り出した。後半に入って日本の攻撃リズムがやや停滞気味になったため、原口を投入して流れを変えるとともに、ダメ押し点を奪いたかったのだ。3−0になった直後の後半18分、「しっかり守備して、点を取ってこい」と強調し、原口を送り出したという。
 ゴールに飢えていた男はガムシャラに前へ前へと向かった。ピッチに入った5分後に、ミスからクウェートに1点を献上してしまったことも、原口の闘志に火をつけた。最初の決定機は29分、ゴール前に飛び出し、大迫からの折り返しを左足でシュートしたシーンだ。これは惜しくもポストをたたき、得点には至らなかったものの、持ち味はよく出ていた。41分にも、強引なドリブル突破からゴール前でビッグチャンスを迎えたが、ボールは相手DFに当たり、コーナーキックとなった。

求められる自分らしいパフォーマンスとゴール

 2度の得点機を逃したことが焦りにつながったのか、終盤の原口は周囲との連係よりも、「自分が自分が」という意識を出しすぎたように見受けられた。ボランチの山本康裕は「元気は足元で勝負するのが一番だと思うし、すごくボールを欲しがって引いてきたから、周りがもっとうまく対応できていたら良かった」と反省していたが、原口自身も足元に入りすぎるきらいがある。ドリブル突破からゴールという自身の武器を生かそうという考えからだろうが、肝心の得点は奪えなかった。スーパーサブからスタメンに這い上がるための強烈アピールも、残念ながらできなかったと言わざるを得ない。

「あの相手に点を取れないようじゃ、どこにも取れないと思うんで、反省したいです」
 試合後の原口は吐き捨てるように言い、瞬く間にスタジアムを去った。すさまじい負けず嫌いゆえに、自分に納得がいかないとぶっきらぼうな対応をしてしまうのだ。このチームでは東や山崎より実績で劣るだけに、ゴールを奪わなければ生き残っていけない。そんな危機感も強く抱いたに違いない。
 だからこそ、23日に敵地・クウェートで行われる第2戦は、原口にとって本当の正念場となる。永井の復帰によって、第1戦でゴールを挙げた大迫さえも控えに回される可能性が高い。それだけ攻撃陣のサバイバルは熾烈(しれつ)を極める。Jリーグでは目覚しい活躍を見せる原口といえども、次こそ結果を出さなければ、最終予選に進んでもピッチに立てる保証はないといっても過言ではない。

 とはいえ、原口や宇佐美、宮市のような頭抜けた個の力を持つタレントは、いずれ関塚ジャパンに必要になってくる。アジアのミドルクラスであるクウェート相手なら、アジア大会で積み重ねた土台だけで十分に勝てるが、最終予選で対峙(たいじ)するオーストラリアや韓国などは強敵だ。今のチームは永井という絶対的な武器を擁するものの、1人では足りない。スピードとドリブル、ゴール前の怖さを備えた原口のような選手が複数人出てきてこそ、日本は五輪出場権を手にできる。

 まずは、2日後のアウエーゲームである。原口には第1戦の反省をしっかりと踏まえ、自分らしいパフォーマンスとゴールという結果をきちんと両立させてほしいものだ。

<了>

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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