なぜ、日本は中国に勝てないのか? “最強・中国”、世界戦における強さの秘密=世界卓球
徹底した準備が強さの秘けつ
女子シングルスは中国選手4人がメダル独占。初優勝の丁寧(左から2番目)ほか、世界戦での圧倒的な強さを見せ付けた 【写真:ロイター/アフロ】
一方、完全優勝した中国に対して、日本は単複含めて7戦全敗だった。プロツアーで日本選手が勝つことはあっても、世界イベントでの中国勢は圧倒的な強さを発揮する。それは、国を代表し、国民が注目する中で負けるわけにはいかない、威信をかけた戦いであること。さらに、世界選手権と五輪前の特別訓練によって、彼らの実力は揺るぎないものになっているとも言える。
中国の世界戦の準備のひとつに、さまざまな想定訓練がある。ひとつは、騒音訓練や移動訓練。会場と同じような観衆の大歓声を録音したものを体育館で流して環境に慣れる訓練、また練習前にわざと車で1時間ほど走って、体育館に着いてすぐに試合をやる訓練、精神面を鍛える軍事訓練への参加、そして極めつけは仮想敵訓練と言って、強い選手と同じようなスタイルの選手を作って訓練を行うものだ。
出場選手はタフなエリート集団
男子シングルスは張継科(左から2番目)が優勝。今大会も中国が5種目完全制覇を成し遂げている 【Getty Images】
まず各省、そして北京、上海のような直轄市にはそれぞれ代表チームがあり、地方の運動能力に優れた英才たちをそこで発掘し、さらにその中から勝ち残った選手だけが国家チームに選ばれる。そこで戦いは終わらず、20〜25人ほどの1軍と同数の2軍選手がいて、その中の上位数名だけが国家代表として、世界選手権に出場する。
つまり、世界選手権などに出場する代表選手はし烈な国内競争を勝ち抜いたタフなエリートたちでもある。
基本的には北京の国家チームでの集合・合宿訓練を行い、合間に国際大会に出場する。90年代からはそれらに加えて、超級リーグというプロリーグも創設し、選手の強化とともにプロ選手としての生活も確保されてきた。特に、経済発展が著しい昨今では、国家チームの選手としての生活の保証はもちろんだが、超級リーグでの年俸、国際大会での賞金、世界大会等での報奨金、卓球メーカーとの用具契約やスポンサーからのコマーシャル収入など、相当な収入を得る選手も珍しくない。ひと握りとは言え、日本のプロ野球選手のように、中国国内では破格の収入を得ることのできる卓球選手は、子どもたちのあこがれる存在にもなっている。
打ち破る秘けつは“意外性”
日本のエース・水谷(奥)でも中国の壁は破れなかった。しかし、来年に迫ったロンドン五輪では、中国の厚い壁を破ることに期待したい 【写真は共同】
ならば、そんなスーパーマンの中国選手に日本選手は永遠に勝てないのだろうか。
中国選手は圧倒的に強いが、盲点もあるのだ。それは、戦術が定型化している分、予測不能な技術、戦術を使われると崩れることがある点だ。過去に世界チャンピオンになり、バルセロナ五輪男子シングルス金メダリストにもなったヤン=オベ・ワルドナー(スウェーデン)という天才的な選手が中国選手を次々と打ち破った例がある。
彼は、意外性のあるプレーで中国のコンピューターを狂わせた。中国の模倣ではなく、彼らの予測を狂わすプレーをすること。その上で、競り合いになると中国選手はもろさを見せる。常に勝つことを義務づけられている彼らはスタートダッシュすると断然強いのだが、競り合いになり、リードを奪われると精神的に崩れることもある。
そういう戦いに彼らを引きずり込むことができれば、中国の壁を破ることはできる。とてつもなく厚い壁ではあるが、決して崩せない壁ではない。そういったプレーを今後、男子の水谷、松平健太(早大)、丹羽孝希(青森山田高)、女子の石川佳純(IMG)という選手たちに期待したい。
<了>
- 前へ
- 1
- 次へ
1/1ページ