映画『クラシコ』の後日談=JFL前期第8節 松本山雅FC 2−1 AC長野パルセイロ
変則的なリーグ戦を余儀なくされた今季のJFL
初のJFLでの信州ダービーに意気盛んの長野サポーター。天気は怪しいがオレンジ色のユニがまぶしい 【宇都宮徹壱】
今季で第13回を迎えるJFLはこの日が「前期第8節」ながら、やっと2試合目。言うまでもなくJFLも、3月11日の震災の影響を受けており、実質的な開幕戦は1週間前の4月23日であった。未消化試合に関しては、8月、11月、12月に行われることになっている。ただしJリーグと大きく異なるのは、全18チームがリーグ再開を迎えられなかったことだ。被災地・宮城を本拠とするソニー仙台FCは、前期第7節から第17節はリーグ参加を断念。従って、この間は17チームでのリーグ戦となるため、1チームは試合なしとなる。ソニー仙台について、JFLは「後期第1節からの参加を検討中」としているが、チームとしての結論はまだ出ていないようだ。
いずれにせよ今季のJFLは、前期の11試合は17チームで、後期17試合は18チームで行われる方向で調整が進んでいる(未消化の6試合を何チームで行うかについても現時点では未定)。仮にソニー仙台が後期第1節から復帰し、未消化試合を戦ったとしても、今季の試合数は23試合。他のチームとは、10試合から11試合少なくなるわけで、当然ながら勝ち点で大きなハンディを背負うことになる。いや、そもそも試合数にバラつきがあること自体、リーグ戦の大原則に反しているわけで、当然、JFL内部では運営に関してさまざまな議論があったことだろう。それでも最終的には、ソニー仙台の途中参加を受け入れ、変則的ながらもリーグ戦を実施することが、各チームの満場一致で決まった。JFLは、雑多なバックグラウンドを持ったチームの集合体でありながら、リーグとしてのチーム間の結束は固い。それゆえ、もっともな判断であったと言えよう。
震災後に映画『クラシコ』が果たした役割とは
2年ぶりにホームに長野を迎えるにあたり、メーンスタンドでこの試合の重要性を説く松本サポーター 【宇都宮徹壱】
試合開始前、松本のコールリーダーがメーンスタンドに現れて、「長野には絶対に負けるわけにはいきません!」とダービーの重要性を説きながら、ゴール裏との共闘を呼び掛けていた。「ああ、映画と同じだなあ」と、私は少しばかりうれしくなる。映画とは、地域リーグ時代の松本と長野を追いかけたドキュメンタリー映画『クラシコ』(監督:樋本淳)のことである。この映画、サッカーのドキュメンタリーなのだが、試合の映像はあまり出てこない。スクリーンに登場するのも、サポーターやクラブスタッフ、そして社会学者やジャーナリストや飲み屋のオヤジなど、実に多種多様。サッカーを追いかけながらも、作品のメーンテーマは明らかに「地域コミュニティー」であり、さらに言えばJリーグが掲げる百年構想の「理想像」といっても過言ではないだろう。
余談ながら『クラシコ』の東京での初上映は3月12日、すなわち震災の翌日であった。震災後の1週間は、映画館を訪れる客は少なく、関係者は大いに気をもんだという。しかし状況が少し落ち着いてからは、見るからにサッカーファンと分かる客が数多く映画館を訪れるようになった。3月から4月上旬にかけて、日本ではサッカーの公式戦はまったく行われていない。それだけに、フットボールに飢えた人々には、まさに天の恵みのような作品に映ったはずだ。映画『クラシコ』は、はからずも今回の震災によって「サッカー成分」が欠乏した人々に、その始原的な喜びを与え続けていたのである。そして映画を観た人々、あるいは映画にかかわったすべての人々にとって、今日の信州ダービーはまさに「映画の後日談」であった。