【ラグビー/NTTリーグワン】「そんな甘いこといかんな、って」。 国内ラストマッチの堀江翔太が見せた笑顔と涙<埼玉パナソニックワイルドナイツ>
【©ジャパンラグビーリーグワン】
埼玉WK 20-24 BL東京
このプレーオフトーナメント決勝がリーグワンでの現役ラストマッチとなる堀江翔太の出番は、後半のスタートから巡ってきた。
一進一退の攻防はファイナルにふさわしいものだった。6対17と追い詰められた埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)だったが、後半23分にベン・ガンターが気迫のトライ。さらにその5分後には小山大輝が縦突破からトライを決めて逆転に成功した。だがその後、東芝ブルーブレイパス東京に再逆転を許してしまう。
20対24。56,486人のファンが固唾をのんで見守る中、”ワイルドナイツ劇場”はクライマックスを迎えた。後半37分に堀江の“パス”を起点にして流れるようなコンビネーションが生まれる。最後は左サイドでのラックから6本のパスをつないで長田智希がトライゾーンに駆け込んだ。
王座奪還を手繰り寄せる劇的な“トライ”。堀江は、すぐに長田の元へ駆け寄った。コンバージョンキックを決めればノーサイド。キッカーとなる松田力也は、キックティーを準備しながら、堀江を呼び寄せた。ここで、堀江がキッカーを務めるのか。スタジアムは俄然、沸いた。最高の花道になると、誰もが信じた。
その刹那、トライにつながる一連のプレーが「テレビジョンマッチオフィシャル(TMO)」審議に。そして、堀江の“パス”がスローフォワードと判定されて、トライと王座奪還が幻と消えた。
「(スローフォワードと判定されたパスは)とりあえず、まったく見ずに横に投げた。漫画みたいに、ドラマみたいにいかないのが非常に僕らしく……(笑)。そんなに甘いこといかんなって、神様に教えられた。これから社会の荒波にもまれると思うので、次のステージに生かしていきたい」
現役引退発表から、一度も涙を見せていなかった堀江だが、試合後のセレモニーでは涙腺が一気に緩んだ。「ずっと泣かずに、と思っていたのですが、最後はホッとして我慢ができなかった。多くの方々のおかけで15年間、良いラグビー人生を過ごすことができました。やり切ったので、生まれ変わっても(ラグビーは)絶対にしません(笑)」。
日本ラグビー界のレジェンドは、笑顔と涙で国立をあとにした。勝てなかったが、最高のファイナルだった。
(伊藤寿学)
埼玉パナソニックワイルドナイツのロビー・ディーンズ監督(左)、坂手淳史キャプテン 【©ジャパンラグビーリーグワン】
ロビー・ディーンズ監督
――ペナルティが多かった。東芝ブレイブルーパス東京(以下、BL東京)に良いプレッシャーを掛けられてしまったという見解でしょうか?
「前半はお互いにプレッシャーを掛け合っていたのですが、BL東京のほうにリターンが大きく、それが結果的に最後に差を生み出してしまったのではないかと感じています。
お互いのチームにいい瞬間があったと思うのですが、どちらに転んでもおかしくないゲームだったと思います。今回、決勝で敗れてしまったことで自分たちが痛手を負うところだと思います。このチームが非常に良いシーズンを送っていた中でこのような結果になってしまったので、より痛いというのと、この結果をのみ込むのに時間がかかるのではないかと感じます。
素晴らしいファイナルでしたし、このチームを誇りに思います。良いラグビーを繰り広げてくれたと感じています。そして今日の流れには、自分たちのキャラクターが見えましたし、堀江(翔太)選手も良い顔を残してくれたと感じています。選手たちに同情はしますが、それと同時に誇りにも思っています」
――テレビジョンマッチオフィシャル(TMO)が多かったが、これは世界的に仕方がないことなのか?
「その話をするには、この場は適切でないと思います。ラグビーワールドカップ2023フランス大会後に、話し合いも行われています。個人的にはもうちょっとTMOが減っていけばと思っていますが、今回の結果にはまったく関係ありません」
――いつもよりも5~10分ほど早く、後半開始からフロントロー3人全員を変えた理由はなぜでしょうか?
「エネルギーをチームにもたらしたいと思いました。私たちは良い控えメンバーを抱えていますし、フロントローについては、先発とベンチで差がないと思っておりますので、そのような判断をしました。後半からプレッシャーを返していきたいという気持ちがありましたし、スクラムのところで苦しい部分があったという背景があります」
埼玉パナソニックワイルドナイツ
坂手淳史キャプテン
――ここまでリーグを勝ってきた中での敗戦だった。チームに足りなかったものをどう感じていますか?
「足りないもの? なんだったんですかね。ロビーさん(ロビー・ディーンズ監督)も言うように本当に良いシーズンでしたし、良い最後はこのように負けて、失敗のように見えるのですが、そうではなくて、みんなで成長してきたし、全員が同じベクトルを向きながらやってきました。昨季もそうですが、決勝はどちらに転んでも分からない瞬間があります。実力も拮抗していますし、今までの戦績も何も関係ありません。イーブンなゲームでした。そこを落としてしまったということだと思います。
決して自分たちがパニックになっていたわけではなく、前半の最後にペナルティを取られて、ゴール前の5mのところで(一人少なくなりながらも)14人で守れたのも良かったです。良いところもありました。一歩及ばなかったというところだと思います。
ペナルティの部分に関しては、しっかりとレフリーにアジャストしていくという、言葉では簡単なのですが、そこも考えなければいけないと思います。最後、ゲームはTMOもあって変わってしまいましたが、みんな最後まで自信をもってプレーしていましたし、最後はトライにはならなかったですが、すごくきれいな攻撃でしたし、ああいうラグビーができたので、TMOは入りましたけど、自分たちのプレー選択は間違っていなかったと思います」
――TMOが多い試合だったが、これは世界的に仕方がないことなのでしょうか?
「ゲームを大きく変えたのは、もちろん、そう(TMO)なのですが、どういう判断になるかはその日のレフリーによって変わります。映像を見て、しっかりと受け止めたいと思います」
――トライ数は埼玉パナソニックワイルドナイツ(以下、埼玉WK)は2本で、BL東京は3本だった。攻め切れなかったのか、守り切れなかったのか、どう感じていますか?
「守備のほうでは点数を多く取られましたけど、イレギュラーな部分が多くて、そこでTMOもありました。それでも守備は良いコミュニケーションをとって、よくやっていたと思います。相手は10、12、13番のラインで良いアタックをしてきましたが、そこに対してのディフェンスはよくやったと思います。アタックではもう少しテンポは上げられた部分はありますが、ボールをキープしながら今季やってきたことが出せたと思います。トライを取り切れなかったですが、これからもいろいろなエッセンスを加えながらやっていきたいと思います」
――マリカ・コロインベテ選手にイエローカードが出た際に、どんなレフリーからの説明がありましたか?
「あのペナルティでイエローカードは確実だけれども、少し(ゴールラインまで)距離はあったのと、ウチの14番が追いかけてきていたのでペナルティトライにはならない、ということでした。あれは、後ろから(ジャージー)をつかんでいていたので、イエローカードはしょうがないと思いますし、その説明については納得して、判断を待っていました」
――試合後、堀江選手と言葉を交わしましたか?彼から学んだことや引退について思うことがあれば教えて下さい。
「ゲームが終わって、お互いに『ナイスゲーム、ナイスファイト』ということは言いましたし、堀江さんから『ここからまたチームを作っていかなければあかんなぁ』と言ってくれたので、『そうですね、頑張ります』と答えました。堀江さんから学んだことは多々あるのでここでは話し切れないですが、あとで二人でしゃべります。
一番、フッカーとしてのスキルについては大きな影響を与えられました。プレーについてもたくさん学びました。メンタルについても、経験の部分が大きいと教えてくれています。彼のもつ経験や考え方はチームに必要なので、ここ数年はそれを必要なタイミングで伝えてくれていました。チームにとって大きな存在でしたし、今季に限らずに、たくさんのことをみんなに伝えてくれたと思います。彼らのことを考えても、勝って『ONE MORE YEAR』と伝えたかったのですが、堀江さんの意志も固いですし、引退はされますが、チームに関わってくれると思うので、彼のメンタルや経験をまだ学ぶ部分は多いですね。まずは『お疲れ様です』と伝えたいですし、『ここからも、またよろしくお願いします』ということを伝えたいと思っています」
――試合後、リーチ マイケル選手とはキャプテン同士で会話をしましたか?
「まだ、『お疲れ様』としか言えていません。良いゲームだったと思いますし、5万6,000人以上の方が見に来てくれて、テレビでもたくさんの方が見てくれたと思います。その中で良いゲームができたのは、相手があってのことでお疲れ様という気持ちでしたし、BL東京さんに関しては、『おめでとうございます』という思いだけです。リーチさんはレフリーとよくしゃべっていましたし、チームメートを鼓舞していました。そこは戦っていて感じました」
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