仙台にサッカーのある日常が戻った日=「震災復興キックオフデー」が持つ意味

小林健志

激しい守備からのショートカウンターで勝利を呼び込む

仙台は太田(中央)のゴールを最後まで守り切り、浦和から記念すべき初勝利を挙げた 【写真は共同】

 試合は前半から仙台の戦い方が機能した。仙台の手倉森誠監督は前節浦和がショートカウンターから名古屋を相手に3得点したことから、スペースを消すため、しっかりとブロックを作って守る戦いを選手たちに徹底させた。選手たちも球際で負けない意識を全員が高く持ち、逆に仙台がショートカウンターを仕掛ける展開でチャンスを多く作るようになった。

 そして40分、スコアが動く。右サイドで梁勇基と宇賀神友弥が競り合い、浮いたボールはゴールラインを割りそうになる。しかし梁があきらめずに追いかけたところ、ボールはイレギュラーバウンドして、何と梁の足元へ。フリーの梁がクロスを上げると、ゴール前で待っていた太田吉彰が自身Jリーグで2度目というヘディングシュートを決めた。

 後半に入り、浦和は田中達也に代えて高崎寛之を投入する。高崎へのロングボールからチャンスを作り始めたが、仙台はブロックを作った守備で落ち着いて対応。その後も仙台は菅井直樹のクロスから関口訓充のシュート、松下年宏のCKから赤嶺真吾のヘディングシュートなど決定的な場面を作った。
 守備では終盤、マゾーラのクロスからマルシオ・リシャルデスにシュートを許したが、鎌田次郎が渾身(こんしん)のクリアでピンチを脱出。さらに後半アディショナルタイムには、ペナルティーエリア近くでFKを与え、マルシオ・リシャルデスにゴールを狙われる場面もあったが、壁に当たって事なきを得た。試合はこのまま終了。後半は劣勢に立たされながらも選手全員が気持ちのこもったプレーで守り抜き、1−0で逃げ切った。仙台はJ1・J2時代あわせて初めて、浦和に勝利した。

 手倉森監督は「浦和の個の力を考えれば、たとえホームでも手堅い守備は外せなかったです。攻撃に関しては決断力のある攻撃が重要でした。名古屋が浦和にやられたようなことを逆に自分たちがやれれば、と今日の戦術を組みました」と、高い個人技を持つ選手がそろう浦和に対し、激しい守備からのショートカウンターという狙い通りの戦いができたことに満足げだった。

楽天と共に被災地へパワーを送る

 前述したように、この日は楽天もKスタ宮城でオリックス・バファローズと対戦し、田中将大が3−1と完投勝利を挙げている。楽天と共に仙台は勝利を飾り、震災復興キックオフデーに花を添えることができた。

「被災地東北で、こうしてプロ球団が本拠地で試合できるということを思えば、確実に復興が前に進んでいると実感できると思います。真剣勝負の中、こういう状況でも勝つことができると示せれば、自分たちが下を向いていられないという思いになります。Kスタとユアスタからパワーを送れればいいと思います。ぜひ東北の人たちに自分たちにも本当のパワーがあることを自覚してもらって、一緒に前に進んでいきたい、いざとなったら引っ張っていきたいという思いがあります。その気持ちを1年間、いや街を取り戻すまでやり続けたいと思います」

 青森県五戸町出身で東北への思いが非常に強い手倉森監督は、自分たちが復興の先頭に立ち、被災者の人たちを引っ張っていきたいという強い決意を会見で語った。
 前節の川崎フロンターレ戦、そしてホームゲームでの浦和戦に勝利し、街の復興に向けて歩みを進める仙台・宮城・東北の人たちへ大きな勇気を与えたベガルタイレブン。サッカーのある日常を取り戻し、今後もサッカーができる喜びを感じながら、被災地のために、全力で戦い続ける。

<了>

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著者プロフィール

1976年、静岡県静岡市清水区生まれ。大学進学で宮城県仙台市に引っ越したのがきっかけでベガルタ仙台と出会い、2006年よりフリーライターとして活動。各種媒体でベガルタ仙台についての情報発信をするほか、育成年代の取材も精力的に行っている

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