仙台にサッカーのある日常が戻った日=「震災復興キックオフデー」が持つ意味

小林健志

震災からの復興をアピールする4月29日

震災後初のホームゲームには多くのサポーターが詰め掛け、仙台はサッカーのある日常を取り戻した 【Getty Images】

 ベガルタ仙台は4月29日、震災後初めてホームのユアテックスタジアム仙台(以下、ユアスタ)で、J1リーグの浦和レッズ戦を行った。この4月29日は仙台市民・宮城県民にとって大きな意味を持つ日であった。

 村井嘉浩・宮城県知事はこの日を「震災復興キックオフデー」と名付けた。29日はベガルタと同じく仙台を本拠地に置くプロ野球チーム・東北楽天ゴールデンイーグルスも、クリネックススタジアム宮城(以下、Kスタ宮城)で震災後初のホームゲームを行った。プロ野球・Jリーグが共に仙台でホームゲームを再開し、震災からの復興を強くアピールする1日と位置付けられたのだ。

 この日はスポーツイベントのみならず、東北新幹線の仙台−一ノ関間の運転が再開し、全線が復旧した。さらに、仙台市営地下鉄も台原−泉中央間が開通し、こちらも全線復旧。主要な交通インフラが復興する日でもあったのだ。

 試合が行われたユアスタは泉中央駅から徒歩5分の場所に位置し、多くのサポーターが地下鉄に乗ってスタジアムを訪れる。仙台市営地下鉄は黒松駅から泉中央駅にかけては地上の高架橋の上を走るのだが、泉中央駅行き地下鉄は右手にユアスタを眺めながら泉中央駅に到着する。地下鉄を使ってユアスタに通い詰める仙台サポーターは、地下鉄の車窓からユアスタを眺めることにより、試合に向けての高揚感を高める。これが多くの仙台サポーターの「サッカーのある日常」だった。しかし、震災がこの日常を奪っていった。

 震災以来ずっと台原駅から泉中央駅は地下鉄が走っていなかったため、久しぶりに泉中央駅まで地下鉄に乗った仙台サポーターは、試合を待つユアスタを車窓から眺めながら、サッカーのある日常が戻ってきたことを感じただろう。

復興の喜びに満ちた試合前

 試合前は陸上自衛隊による吹奏楽演奏が行われた。演奏中、大型ビジョンに流れたのは、自衛隊の被災地での活動を映した写真のスライドだった。スタジアムに集まった仙台サポーターは、多かれ少なかれ自衛隊の活動の恩恵を受けたことだろう。震災から50日でユアスタでのホームゲームを迎えられた喜び、そして自衛隊への感謝の思いでスタジアムが包まれ、大いに盛り上がった。通常のJリーグではあまり例のない前座イベントだろうが、震災から復興して最初の試合のイベントとしては意味のあるものだったのではないか。

 この日は浦和サポーターも多数詰め掛け、約3000人がアウエーゴール裏を赤く染めた。浦和サポーターはいつも通り、相手チームである仙台の選手が紹介されると大きなブーイングを行った。そして奥山恵美子・仙台市長と村井宮城県知事があいさつで浦和サポーターに敬意を表した際には、拍手が沸き起こった。だが、その後「試合は別です」と言うと、すかさず浦和サポーターからブーイングが飛んだ。あくまで仙台をたたきつぶす。浦和サポーターは仙台に対していつも通り全力で戦う姿勢を見せていた。

 普段なら当然、相手チームにとって浦和サポーターの熱い応援は脅威となるのだろうが、この日の仙台サポーターはそれをも楽しんでいる様子があった。試合前の大声での浦和サポーターの応援歌に一部サポーターが手拍子する姿すら見えた。
 どんなに浦和サポーターが熱い応援をしても、それをも楽しむ雰囲気があったのは、サッカーのある日常が戻った喜びが、スタジアム中を覆っていたからではないだろうか。浦和サポーターの応援は、サッカーのある日常の一風景として喜びを持って迎えられたのかもしれない。

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著者プロフィール

1976年、静岡県静岡市清水区生まれ。大学進学で宮城県仙台市に引っ越したのがきっかけでベガルタ仙台と出会い、2006年よりフリーライターとして活動。各種媒体でベガルタ仙台についての情報発信をするほか、育成年代の取材も精力的に行っている

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