開幕3戦で見えた勢力図と新ルールの光と影 3つの大変革がもたらしたもの=F1

田口朋典

無敵アイテムの弊害

KERSと可変リアウイング、ピレリタイヤはレースでも大きな効果を見せている 【Getty Images】

 だが、その反面第2戦マレーシアGPでレッドブルを襲ったKERSのトラブルや、フェラーリを苦しめた可変リアウイングの作動不良は、逆にレースをやや興ざめにしてしまったようにも思う。KERSや可変リアウイングがなければ思うように戦えない、という状況は“スポーツ”としてのF1を考えたときにどうなのか、という疑問を感じたのだ。
 チーム力とマシンの個体差が大きく、予選の順位からさほど変動もないままフィニッシュする、あたかも“高速パレード”となってしまいかねなかった近年のF1に「NO!」を突きつけたのは良い。しかし、昔懐かしいアニメ「ポパイ」における無敵アイテム・ほうれん草のように、可変リアウイングやKERSがレースの醍醐味(だいごみ)を左右する存在であってはならない。

過剰な演出よりもレースの本質を

 一方、ピレリタイヤのパフォーマンスが生み出す混乱もまた、大きなファクターとなっている。開幕3戦にピレリが持ち込んだのはハードとソフトの2種類だった。ただ、それぞれの消耗の進行差が期待したほど大きくなく、消耗の早いソフトではタイムダウンが大きく長い周回は不可能。かといって持続性はあるが、タイムの落ちるハードで引っ張るという戦略もあまり選べないという状況に、各チームは頭を悩ませていた。3ストップと2ストップという戦略上の違いを生んでいるのは良い。しかし、予選18位と失速し、結果的にソフトを温存することとなったマーク・ウェバー(レッドブル)が3位表彰台に立った。レッドブルというマシンの速さを差し引いたとしても、タイヤというファクターがあまりにも大きく決勝の展開に影響するのも……、と考えてしまう。

 開幕からの3戦を見る限り、個人的にはKERS、可変リアウイング、そしてピレリタイヤという新たなファクターが、予想以上にレースに影響を及ぼし過ぎているように思えてならない。調味料の効き過ぎた味の濃い料理よりは、素材そのものの味を感じさせる方が、趣(おもむ)きがあると感じるのは筆者の年のせい、とは思いたくはないが……。

抜群の安定感をみせる可夢偉

エースとして安定感ある走りを見せる可夢偉(左)と新人ドライバーのペレス 【Getty Images】

 そんな中、東日本大震災の悲しみに沈む日本をわずかながらも勇気づけてくれているのが、小林可夢偉(ザウバー)の健闘だ。

 開幕戦のオーストラリアGPでは幸先の良い8位フィニッシュを飾るも、リアウイングの車両規定違反で失格の憂き目に。しかし、マレーシアではしっかりと気持ちを切り替えて7位。中国でも粘り強く10位で完走し、2戦連続のポイント獲得を果たした。この可夢偉の走りは、マシンの信頼性に欠け、焦りからかミスも多かった昨季の序盤戦とは大きく異なり、抜群の安定感と一層の強さを感じさせる。

 新人のセルジオ・ペレスと組み、日本人F1ドライバーとして初めて、名実共にチームをけん引するエース格のドライバーとなった今季の可夢偉。持ち前の速さと根性に、昨季後半から続く精神的成長も相まって、これまでの日本人ドライバーにはなかったような安心感を見る者に与えていることは間違いない。

 シーズンのロケットスタートを決めたレッドブルに、早くもマクラーレンが肉薄したように、シーズンが進むにつれ、資金的に優位に立つライバルチームの開発進展で可夢偉が苦境に立たされる可能性はある。しかし、今季の可夢偉にはぜひとも、04年の佐藤琢磨(8位)以来となるシリーズランキングトップ10入りを狙ってもらいたい。少なくとも開幕3戦で見せたような戦いを彼が続けて行けば、10月の日本GPのスタンドには昨年以上の観客が詰めかけることになるだろう。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。大学卒業後、趣味で始めたレーシングカートにハマり、気がつけば「レーシングオン」誌を発行していたニューズ出版に転職。隔週刊時代のレーシングオン誌編集部時代にF1、ル・マン、各種ツーリングカーやフォーミュラレースを精力的に取材。2002年からはフリーとなり、国内外の4輪モータースポーツを眺めつつ、現在はレーシングオン誌、オートスポーツ誌、CG誌等に執筆中。自身のブログ“From the Paddock”(スポーツナビ+ブログで)では、モータースポーツ界の裏話などを披露している

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