苦悩のバイエルン、“負の連鎖”を生んだ戦術的ミス=昨季のCL準Vチームはどこでボタンを掛け違えたのか

中野吉之伴

低迷の予兆はシーズン前からあった

昨季CL準優勝のバイエルンは、期待を大きく裏切り低迷している。その大きな要因は守備の不安定さにある 【Bongarts/Getty Images】

 こんなはずではなかった。試合に負けるたびに首脳陣の顔には、はっきりと戸惑いと怒りが浮かんでいた。昨シーズン、DFB(ドイツサッカー連盟)カップ、ブンデスリーガで優勝、チャンピオンズリーグ(CL)でも決勝でインテルに負けたとはいえ準優勝。時は来た――。2001年以来のCL優勝を、と意気込んで臨んだはずの今シーズンだったが、信じられないほどにつまずいた。

 ブンデスリーガでは勝ち点の取りこぼしが続き早々に優勝をあきらめ目標を2位、さらに3位と下方修正。DFBカップは準決勝でシャルケ04に敗れて敗退し、タイトル獲得の最後のチャンスと臨んだCLも圧倒的有利な状況(第1戦はアウエーで1−0の勝利)まで持っていきながら、インテルに最後の最後で試合をひっくり返された(第2戦は2−3と敗れ、2試合合計スコアは3−3に。アウエーゴールの差で敗退)。シーズン前にあった「今シーズンは欧州の頂点に立てるかもしれない」という期待はベスト16で淡くはかなく消え去った。バイエルンはどこでボタンを掛け違えてしまったのだろうか……。

 最初の予兆はすでにシーズン前にあった。昨シーズンのチーム力に満足していたルイス・ファン・ハール監督は、シーズン前の選手補強をレバークーゼン、ニュルンベルクにそれぞれ期限付き移籍していたMFトニ・クロースとDFブレーノを呼び戻しただけにとどめた。昨季はMFトーマス・ミュラー、DFホルガー・バトシュトゥバー、ディエゴ・コンテントといった若手選手が成長し、MFアリエン・ロッベン、フランク・リベリーといったスター選手、バスティアン・シュバインシュタイガー、DFフィリップ・ラームなどのドイツ代表の中心選手がうまく融合して好成績を生んだ。
 しかし一方でリベリー、ロッベンといった“飛び道具”が離脱すると、途端にチーム力が下がるという点は見逃され、弱点と言われていた守備陣、特にセンターバックの補強はされず、その点を疑問視する声もあった。

指揮官がセンターバックに求めたもの

 ドイツには「攻撃が勝利に導き、守備がチャンピオンを作る」という言葉がある。守備の安定は優勝するための絶対条件だ。それは今シーズン、ブンデスリーガを独走しているドルトムントを見てみるとよく分かる。チーム全体が連動し、ハードワークをいとわずに相手ボールを奪い、素早くテンポのいいパス回しからサイドをワイドに使った攻撃で相手ゴールに迫る。

 守備とはチーム全体で行うものだが、まずその柱となるべきセンターバックとボランチのポジションに必要な人材をそろえるのが王道と言える。しかしファン・ハール監督はこのポジションを固定することができなかった。ボールポゼッションを大事にしたいファン・ハール監督はセンターバックからのゲームの組み立てを求め、守備力よりも足元の技術に秀でた選手を好んで起用しようとした。そのため、昨シーズンのレギュラーだったアルゼンチン代表のDFマルティン・デミチェレスはその座を奪われ、冬の中断期間にマラガへと移籍。シーズン開幕当初はスタメンだったDFダニエル・ファン・ブイテンも徐々に出場機会を失い、ベンチに座る時間が長くなった。

 センターバックに求められるのは、まず何よりも相手の攻撃を跳ね返すことだ。フィードボールがタッチラインを割っても「仕方がない」で済むが、守備におけるミスはすぐに失点につながる。ファン・ハール監督はそれでも最適な組み合わせを見つけようと、デミチェレス、ファン・ブイテンよりも、バトシュトゥバー、ブレーノ、さらには本来ボランチのアナトリー・ティモシュチュクを優先して試すが、答えはなかなか出なかった。毎節のように違う組み合わせを試すため、連係が成熟することもない。

 前半戦はそれでもボランチの働きが最終ラインのもろさを支え、なんとかしのいでいたが、1月にチームの支柱であるキャプテンのMFマルク・ファン・ボメルがミランに移籍してしまい状況は悪化した。これが痛かった。ベストパートナーを失ったシュバインシュタイガーはプレッシャーと負担の増加から、パフォーマンスレベルを極端に落とし、それと連動して守備はますます不安定に陥った。

不安定さが引き起こした守備の混乱

 センターの不安定さはサイドの選手にも波及する。守備に入った時の役割分担が明確ではないのだ。本来、4バックは最も危険な中央にコンパクトな布陣を敷き、サイドにボールが出た時に全体でボールサイドにスライドすることを基本とする。相手の動きに対してマークを受け渡し、できるだけ自分たちの布陣を崩さないようにする。もちろん、相手選手のレベルや危険なペナルティーエリア内ではそうしたゾーンにこだわりすぎず、危険な選手やスペースに動くことも大切ではある。

 しかし、今シーズンのバイエルンでは4バックのそれ以前のポジショニングミスによる失点があまりにも多すぎる。例えば、サイドバックが不安定なセンターをケアしようとマンマーク気味に相手選手に付いていく。そのためサイドの守備がおろそかになり、簡単に空いたスペースにボールを運ばれてしまう。また、中央で待つべきセンターバックが比較的早い段階でサイドの選手に当たってしまうためにゴール前が手薄となり、相手にフリーでシュートを許すというシーンが目に付く。

 チームとしての戦術的方向に安定がないと、選手は何に集中すればいいのかを見失ってしまう。
 集中力の欠如は単純な守備のミスを誘発する。守備において、相手ボールホルダーに対しては一番近くにいる選手が当たり、隣の選手は斜め後ろに位置して突破された際のカバーをしつつ、次にパスが出されるかもしれない選手への注意を払うのが基本だ。しかし、バイエルンの守備陣はこの基本すらできずに、相手選手の動きに引っ張られ、中途半端に横並びのポジションを取ってしまうことがある。こうなると裏のスペースへのスルーパスが通りやすくなり、1つのワンツーやロングボールで攻略されてしまう。

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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