苦悩のバイエルン、“負の連鎖”を生んだ戦術的ミス=昨季のCL準Vチームはどこでボタンを掛け違えたのか

中野吉之伴

攻撃はロッベン、リベリーに過度の依存

攻撃はロッベン(写真)とリベリーに依存しており、2人が離脱すると途端に怖さがなくなってしまう 【Bongarts/Getty Images】

 攻撃に関してもアイデアに欠ける試合が続いた。ペナルティーエリア内で守備を固める相手に対し、どう崩そうかというチームとしてのアイデアが見られず、結局はリベリーかロッベンの突破力に頼るしかない。ファン・ハール監督解任騒動の後に6−0で快勝したハンブルガーSV戦のように、この2人が躍動した時に見せる破壊力は確かに素晴らしい。しかしこの2人が抑えられたり、離脱した時のバイエルンの攻撃はまったく怖さがなかった。

 期待されてバイエルンに復帰したクロースも、レバークーゼンで身につけたはずのゴールへ向かう動きがほとんど見られず、ドイツ代表のFWマリオ・ゴメスが得点を重ねているが、いかんせん試合を決定付けるゴールが少ない。ワールドカップ・南アフリカ大会得点王のミュラーは何とかしようと前線で走り回るものの、その動きと周りの選手の動きがかみ合わない。

 一人一人が秀でている選手だけに「何とかオレが現状を打破してやろう」とするのだが、そうすればするほど、チームとしてはギクシャクしていく。攻撃陣は守備陣の不安定さを嘆き、守備陣は攻撃陣の決定力不足に文句を並べる……。
 この流れを断ち切るには、「オレたちはこうやって戦うんだ」という道を指し示す強烈なリーダーシップを持った選手が必要となる。だが、前述の通り“鬼軍曹”ファン・ボメルは移籍してしまった。キャプテンのラーム、副キャプテンのシュバインシュタイガーには残念ながら、そこまでのオーラがない。

インテル戦で露呈したチームの限界

 インテルとのCL決勝トーナメント1回戦・第2戦は、こうした“負の連鎖”が如実に表れてしまった。
 この日のバイエルンは、勝たなければならないインテルに先制点を許すも、リベリー、ロッベンが絶好調ですぐに相手を押し込んでいく。ロッベンのシュートをインテルのGKジュリオ・セーザルがファンブルしたところを詰めたゴメスのゴールで同点に追いつくと、さらにロッベンのパスがラッキーな形でミュラーにつながり、逆転ゴールが決まる。4バックとボランチの間に致命的なスペースを作ってしまうインテルに対して、バイエルンは前半だけでさらに3、4回のビッグチャンスを作り出すが、これをことごとく外してしまった。試合の行方は誰にも分からないものだが、サッカーでは得点機を何度も逃していると痛い目に遭うとういう不文律があり、その的中率は非常に高い。

 後半も主導権を握っていたバイエルンだが、MFウェスレイ・スナイデルのミドルシュートで同点に追いつかれると途端に浮き足立ってしまった。あれほどチャンスを作り出していた攻撃陣は沈黙し、ロッベンが負傷で交代した後はリベリーが孤立。それでも何度かカウンターからチャンスを作るが、それも生かせない。守備陣も、この日は相手の攻撃をそれなりに跳ね返していたファン・ブイテンが負傷退場すると、不安がさらに大きくなり始めた。

 そして「チームとして今攻めるべきか、守るべきか」の方向を決められるリーダーがいないことが、最後のところで踏ん張れない悪癖に結び付いてしまった。この試合、2−2に追いつかれたとはいえ、そのまま終えることができれば勝ち抜くことができた。実際、勝たなければならないインテルの方がよりプレッシャーを感じ、焦りと疲れからか大きなチャンスを作れなかったのだ。
 しかし、バイエルンは時間と状況に応じたプレーができなかった。あろうことか、88分の段階で5人がカウンターで攻め上がり、揚げ句にボールを失うという失態を犯す。すると、守備陣形が整う前にサイドへボールを放り込まれ、爆発的なダッシュで駆け上がってきたDF長友佑都の動きにも翻弄(ほんろう)された守備陣はFWサミュエル・エトーにキープを許す。最後は逆サイドを上がったFWゴラン・パンデフをケアすることができずに、決勝ゴールを奪われてしまった。

 チーム内で戦い方が統一されていなかった証拠に、試合後ゴメスは「守りに入るべきではなかった」と語る一方で、シュバインシュタイガーは「守備についてみんなもっと考えないといけない」と間逆のことを話していた。

 前線にタレントをそろえながらもロッベン、リベリーに依存し過ぎた攻撃陣、固定できなかったセンターバック、チームを叱咤するリーダーの不在、そして理想を追い求めすぎた監督……。バイエルンはそれでも何とか来季のCL出場権を得るために、残り7試合に集中し、ブンデスリーガ3位以内を確保しなければならない。バイエルンのいないCL、それはドイツのみならず、世界のサッカーファンにとってもやはり寂しいことだろう。

<了>

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著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

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