『30歳の成長株』――パナソニック・木下博之=バスケ

松原貴実

タフなゲームを制し全日本総合8年ぶりのファイナルへ

準決勝のトヨタ自動車戦では接戦のタフなゲームを制した 【写真は共同】

 そして、新年に迎えたオールジャパン。まずは準々決勝でリンク栃木と対戦。「今日は永山さんの調子が良かったので、最初からノーマークを作ることに徹した」(木下)という狙いどおり、この試合の永山は第1クオーターだけで14得点の活躍。出だしで波に乗ったパナソニックは終始ゲームを支配し、96−68の大差でベスト4進出を決めた。

 しかし、翌日の準決勝(対トヨタ自動車)は最後まで予断を許さないタフなゲームとなる。トヨタ7点リードで迎えた第4クオーター、パナソニックは永山の3ポイントを機に連続9得点で追い上げると、その後は一進一退の攻防が続く。残り30秒で76−76の同点。最後の攻防でパナソニックの勝利を決めたのは#20エイドリアン・カスタスの3ポイント(残り5.8秒)だった。

 試合後のインタビューで「うちのインサイドに対するトヨタのディフェンスはさすがだったが、スクリーンプレーの対応が今一つと感じたのでそこから積極的に打って出た」と、振り返った木下は、第2クオーターにブザービターを含め12得点を稼ぎ、さらに第4クオーター5分半に逆転の3ポイント決めてチームをけん引。最後まで途切れることがなかった集中力に触れると「ほんとに勝ててよかった。でも、めちゃくちゃ疲れました」の一言で笑いを誘った。

決勝戦の舞台で遭遇した予想外の『敵』

 だが、その木下の集中力を持ってしても開かない扉がある。対アイシンとの決勝戦。ファイナルの舞台に対する極度の緊張感が『高い壁』となってパナソニックの前に立ちはだかった。
「自分自身はいい集中力を持ってゲームに入れたと思うが、すぐに周りの(選手の)ようすがいつもと違っていることに気づいた」(木下)何度も「落ち着いてプレーしよう、いつもどおりのプレーを出そう」と声をかけたが、予想外のプレッシャーに圧倒されたチームの状態は「そう簡単に戻るものではなかった」と言う。立ち上がり5分で5−14とリードされ、第1クオーターは11−21と10点のビハインドを背負う。それでも第2クオーターの終了間際、木下の3ポイントで点差を一けたにして折り返すと、第3クオーターに仕掛けたゾーンディフェンスでアイシンの得点を阻み、第4クオーターに2分23秒にまたも木下の3ポイントで67−66と逆転。追いつかれはしたはしたものの試合は70−70で延長戦に突入した。

 しかし、「試合の流れから私に控えの選手を起用する勇気がなかったため、スタートの選手たちにはかなりの疲労を負わせてしまった」(清水HC)パナソニックは、木下、青野、永山、そして#24広瀬健太がそろって40分を超えるプレータイムとなり、その疲労度は歴然。仕切り直しの5分間を戦う余力に大きな差が出て、74−81でアイシンの前に屈した。
「こんな悔しい気持ちは今までで初めて」と木下。勝敗を分けたといえる立ち上がり、敵ではなく自分たち自身に負けたという思いが一層の悔しさを呼ぶ。

 だが、決して『手ぶら』の敗戦ではなかった。ファイナルという独特の雰囲気を体感できたこと、一方的な展開からチームを立て直し同点まで追いついたこと、そして、こんなにも悔しい思いが「次は絶対に負けない」という思いにつながっていること。
「これで全てが終わったわけじゃない。リーグは続いている。必ずファイナルに残って優勝してみせる」――。それは声高の“宣言”ではなく、伝わってきたのは静かで力強い“決意”だった。

 コートに立てない悔しさをバネとして大きな変ぼうを見せた木下、日本代表の大舞台で『30歳ののびしろ』をつかんだ木下、その彼がJBL後半戦でどんなプレーを見せてくれるのか。力強い決意を胸に重い扉をこじ開ける、その日に期待したい。

<了>

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著者プロフィール

大学時代からライターの仕事を始め、月刊バスケットボールでは創刊時よりレギュラーページを持つ。シーズン中は毎週必ずどこかの試合会場に出没。バスケット以外の分野での執筆も多く、94『赤ちゃんの歌』作詞コンクールでは内閣総理大臣賞受賞。

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