『30歳の成長株』――パナソニック・木下博之=バスケ

松原貴実

オールジャパンでパナソニックを準優勝まで導いたPG・木下博之 【写真:AZUL/アフロ】

 アイシンの4連覇達成で幕を閉じた男子の第86回全日本総合バスケットボール大会(オールジャパン)。準決勝の日立戦、決勝のパナソニック戦はいずれもオーバータイムにもつれ込む激戦となったが、苦しみながらも勝ち抜いたアイシンに改めて“底力”を感じた大会でもあった。
 だが、大会を通じて強く印象に残った選手を1人挙げるとするなら、パナソニックの#1木下博之を選びたい。最後は力尽きたといえども8年ぶりの決勝の舞台にチームをけん引したのは紛れもなくこの木下だと思うからだ。

ベンチウォーマーの試練を乗り越え大きく飛躍

 優れた身体能力と並はずれたスタミナを武器に縦横無尽にコートを駆け抜け、場面に応じて的確なパスを繰り出す、チャンスと見れば躊躇(ちゅうちょ)せず自ら打って出る。今やパナソニックの顔としてなくてはならない存在となった木下であるが、「チームを心技でけん引するポイントガード(PG)としての責任を自覚させるため」という清水良規ヘッドコーチ(HC)の意向からしばらくコートに立てない時期もあった。その試練を乗り越え、頭角を現したのはJBLに『オン・ザ・コート・ワン』のルールが導入されてからだ。
「試合に出られる外国人選手が1人になったことで、チームの得点力はどうしても落ちる。それならば自分が積極的に得点に絡んでいこうと考えた」(木下)と、自ら定めたスタイルがPGとして一皮むけるきっかけとなった。

 もともとスピードと突破力には自信がある。アウトサイドシュートの確率も高い。木下が攻めることで、センターの#31青野文彦が生き、シューターの#6永山誠が生き、パナソニックの戦力は確実に厚みを増した。昨シーズンのJBLでは40分フル出場の試合も珍しくなく、部門別ランキングではアシスト1位、フリースロー2位、得点3位、3ポイント成功率3位という見事な活躍ぶり。
 30歳にして初の日本代表にも選ばれ、昨年11月のアジア競技大会(中国・広州)にも出場した。メダルにはあと一歩手が届かなかったが、アジアの強豪チームを相手に連日1点を争う白熱戦を演じ16年ぶりのベスト4入りを果たしたことは「すごく刺激になったし、勉強にもなった」そして、何よりも「(この経験を通して)プレーに余裕が出てきたように思う」。

 木下にとって『高いレベルの中でまだまだ成長できる自分を実感できた』意義ある大会となったのは間違いない。

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著者プロフィール

大学時代からライターの仕事を始め、月刊バスケットボールでは創刊時よりレギュラーページを持つ。シーズン中は毎週必ずどこかの試合会場に出没。バスケット以外の分野での執筆も多く、94『赤ちゃんの歌』作詞コンクールでは内閣総理大臣賞受賞。

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