立正大淞南、縦への鋭いサッカーの怖さ
<3回戦 立正大淞南(島根) 5−1 新潟西(新潟)>

今大会のラッキーボーイ、加藤大樹の存在

新里大地の先制点で立正大淞南がゴールラッシュの狼煙を上げた
新里大地の先制点で立正大淞南がゴールラッシュの狼煙を上げた【松岡健三郎】

 2回戦で野洲(滋賀)を下したことで前評判の高さを実証してみせた立正大淞南と、22年ぶりの出場で初戦突破を果たした新潟西の試合は、5−1で立正大淞南が大勝した。前半は、立正大淞南の南健司監督が「新潟西さんの粘り強い守備に非常に手こずった」という通り、立正大淞南が攻め込み20本ものシュートを打ちながら、新潟西が体を張った守備やペナルティーエリア内での的確なマーク&クリアで無失点に抑えて0−0で終了。


 しかし、後半に入ると試合が一気に動く。47分、立正大淞南のFW新里大地が2トップの相棒である池田拓生からのパスを受けて先制点を決める。「インターハイ得点ランキング2位なのに、この2試合は全くだった」と南監督に判断され、野洲戦では前半でベンチに引っ込められたエースの意地の一発で、チームはゴールラッシュの狼煙(のろし)を上げた。

 勝敗を分けたのは立正大淞南の素早い追加点だった。新潟西の成海優監督が「立て続けに3失点してしまった……」と悔やんだ通り、立正大淞南自慢のアタッカーたちが畳み掛ける攻撃で先制点から5分後に2点目、その2分後に3点目を決め3−0と引き離す。特にMF小田悠太が決めた2点目は圧巻のパスワークによる中央突破で、南監督も「いつも練習しているような形」と手放しで喜んだ。


 4点目はコーナーから今大会のラッキーボーイ的存在であるMF加藤大樹が決めた。1、2回戦でチームの全得点にあたる5点の固め打ちをし、この日の得点で通算6得点。「大会得点王に対する意識は?」との問いに対し、「まずは(チームの)勝利。勝利に対して貪欲(どんよく)になりたいです」と、加藤に浮かれた様子はない。

 前半11分にはドリブルから豪快にポストをたたくドリブルシュートを放った彼の“形”からすれば意外かもしれないが、南監督によれば加藤は「攻撃陣で一番シュートが下手」だという。「練習でも入っていないし、新里が一番とれる。みんなびっくりしていますが、ためらいなくいけているのがいい結果につながっている」と彼の好調ぶりを分析する。その加藤も「シュートは下手なんで思い切ってやるだけ」と、いい意味での開き直りを持っている。


 また、得点以外に彼の絶好調ぶりを象徴的に示していたのが小田の決めたチームの2点目だ。加藤のアシストから生まれた得点だが、ペナルティーエリア内で余裕のある状況でパスを受けた加藤からすればシュートも打てた場面だった。しかし、そこで加藤はパスを選択。その選択について彼は、「いつもだったら打っていたんですけど、小田がフリーだったのが見えていたので。確実に(点を)取りにいきたかったので、やっぱり出しました」と振り返った。この言葉からも分かる通り、今の加藤は普段以上に研ぎ澄まされ、いつもなら見えていない状況も見えているのだ。

島根県勢初の国立を

この日はCKからチーム4点目を決めた加藤大樹(中央)。6ゴールで得点ランキングトップにつける
この日はCKからチーム4点目を決めた加藤大樹(中央)。6ゴールで得点ランキングトップにつける【松岡健三郎】

 66分で4−0となり試合の決着はついたが、新潟西もプライドを見せる。72分、左サイドからのクロスにFW山川翔也が頭で決めて1点を返した。立正大淞南が疾風怒とうのようなアタッキングサッカーで後半も終始ゲームを支配し、ボールを失ってからも激しいチェイスでボールを取り戻したが、新潟西は司令塔・池田舜を中心に時折ダイナミックなカウンターで牙をむいた。それ以外にも池田の左足から繰り出されるセットプレーで得点の可能性を感じた。


 ロスタイムには立正大淞南がまたもやコーナーから得点を決め、5−1としたところで試合終了のホイッスル。島根県勢初の選手権8強入りという快挙を成し遂げた。南監督は「国立に行ける挑戦権を得ることができた」と先を見据える。「大エースがいない分、能力は低いと思うんですけど、技術的な安定感がある。全員テクニックがあって、体のキレがあって、スピードがあって。10点はないけど、8点が交代選手も含めて11人そろっている。基本的なアベレージが高い」と指揮官が語る今年のチームは、過去の立正大淞南と比較すると総合点が高い。


 確かに、絶好調の加藤ばかりに気を取られると、新里、小田、池田といったほかの攻撃陣が奮起する。この試合、流れの中から奪った3得点はいずれも中央突破から。丁寧につなぎ、パスワークで相手の守備を崩すという攻撃ではなく、ゴールに向かって縦に鋭く向かっていく迫力がある。その攻撃が一度機能し始めると、この日の新潟西のようにサンドバック状態にされてしまう怖さを立正大淞南のサッカーは持っている。


 国立での準決勝を懸けて対戦する相手は、前回大会初戦で敗れた西武台(埼玉)に決まった。「まずはコイントスで黄色のユニホームを着たい」と勝負にこだわる指揮官は、昨年のリベンジに向けて早くも闘志を燃やしていた。3試合で10得点と自慢の攻撃陣に対する自信をさらに深めた立正大淞南は、島根県勢初の国立という次なる快挙を貪欲に狙っている。


<了>

小澤一郎
小澤一郎

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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