大宮アルディージャ、激震に見舞われた2010年=新たな未来へ、目指すべきは原点回帰

土地将靖

観客数水増し事件が明るみに

観客数水増しが明るみに出て、ファンへ謝罪する大宮のフロント陣。激動の1年を象徴する出来事だった 【写真:アフロ】

 最重要命題であるJ1残留へラストスパートをかけようとする10月、クラブはまたも大きな激震に見舞われた。第25節のさいたまダービー入場者数に関する報道に端を発し、2007年11月のNACK5スタジアム大宮改修後からのホームゲーム全試合において、クラブ職員によって入場者数の水増しが行われていたことが明らかになった。これを受け代表の渡邉誠吾氏も引責辞任することとなった。

 一部のクラブフロントが行ったことだが、報道陣は事あるごとに監督に、選手にコメントを求める。チームへの影響が心配された。
「非常に残念なことですし、サポーターの皆さんにもおわびをしなくてはいけないことだと思っています。ただわれわれは、ピッチで結果を残すことしかできない。選手にもそう話をしました」(鈴木監督)

 問題が発覚した後、初めてのホームゲームが24日、川崎フロンターレ(川崎F)を迎えて行われた。試合前にはピッチにクラブ全スタッフが立ち、観客に謝罪した。ある種の異様な雰囲気の中にやはり選手はのまれてしまったのか、試合開始後わずか10分余りで2失点。しかし後半、大宮の猛反撃が始まった。後半4分、セットプレーから深谷友基が1点を返した。

「最初から点は取れそうな感じがあった。後半開始すぐに取れたので、みんな『いける』って思っていたはず」と藤本は振り返る。
 サポーターも後押しする。
「積み上げた勝ち点に水増しなし」
「俺たちがついてる」
 そう横断幕を掲げ、ピッチの選手たちを盛り立てた。そして後半24分、コーナーキックのセカンドボールから、切り札として投入された石原直樹がゴールを挙げた。

 残念ながら逆転はならなかったが、この試合からの大宮は今までと違っていた。先手を取られても追いつき、追いつかれても再び突き放す、そうした粘り強さが発揮された。川崎F戦以降のリーグ戦8試合で、4勝3分け1敗。一気に勝ち点を積み上げていった。
「完全に入ったゴールが認められなかったり、逆に入っていないゴールが失点になってしまったり、アクシデントが多かった。ただそういう場面でも気持ちを切り替えてやれるようになった。メンタル的なコントロールが試合の中でできるようになった」と鈴木監督も手ごたえを語っている。
 そこにはもちろん、これまでのトレーニングでの蓄積もある。守備の安定、試合をコントロールする力。指揮官は「まだまだ」と謙遜(けんそん)するが、鈴木監督就任から7カ月、チームは着実に力をつけていたのだ。

透明性の高いクラブ運営を図る

 J1残留を果たした大宮は鈴木茂新代表を迎え、新しいクラブとしてのあり方を目指す。NTT外部からを含め取締役2名を新たに選任。「誠実で地域に開かれたクリーンなクラブを目指す」と鈴木代表が話したように、川崎F戦以降、入場者数発表についてはその内訳も場内で発表するなど、透明性の高いクラブ運営を図ろうとしている。

 まだ確定ではないが、来季のホームゲームは全試合をNACK5スタジアム大宮で行おうと計画している。原点に返り、新しい大宮アルディージャとして始動する。もちろん、そこにはチームの成績も含まれる。
「クラブもチームのサッカーも、どちらかというと地味というか、手堅さとか堅実さとか……。間違いなくいい部分もあるので、そういうものを残しつつも新しいことにチャレンジしていかないといけない。強いチーム、強いクラブになるためには、サポーターも含めてクラブ全体で考え方を統一しなければいけない。チーム、そしてクラブ全体で1つ1つ積み上げて、今は地味だけど、気がついた時にはパッと花が咲くような、そういうチーム、クラブにしていきたいと思います」(鈴木監督)

 2011年、大宮アルディージャは生まれ変わる。

<了>

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著者プロフィール

1967年1月28日、埼玉県生まれ。93年、現在のWEB版「J's GOAL」の前身である試合速報テレホンサービス「J's GOAL」にて、試合リポーター兼ライターとして業界入り。2001年よりフリーランスとなりライターとして本格活動を開始、大宮アルディージャに密着し週刊サッカーマガジン(ベースボール・マガジン社)ほか専門誌等に寄稿している。

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