浅田真央がコーチと下した決断=全日本選手権・女子シングル
真央&信夫コーチのコンビネーション
「真央スマイル」が戻ってきた 【坂本清】
「フリーでアクセルを跳ぶことは、最初から先生も許してくれています! だから1回は必ず跳びますよ。でも、いちおう……2回跳ぶ予定にはしているんですけれど……」
おそらく浅田真央は、フリーでも当初の計画通り、2度のアクセルを跳びたがったのだ。
「今回は大丈夫ですよ。もう、ただひと言、『1回だよ!』。これで素直に納得してくれましたから(笑)」(信夫コーチ)
フリーでは一度のアクセルを回転不足判定ながら着氷し、その後も2回転になったサルコウ以外は大きなミスなく、きれいに『愛の夢』をまとめる。「フリーは1回」、その決定に納得した上での表情は、ノービス(ジュニアの下のカテゴリー)のころの「真央ちゃん」のように素直で、純粋で、何の飾り気もなく美しい。世界の名コーチが4年間引き出せなかった浅田真央の本当の魅力を、佐藤信夫はたった4ヵ月で引き出してしまったのだ。
【坂本清】
跳びたい暴れ馬、浅田真央と、その手綱をしっかりと握ろうとする名伯楽・佐藤信夫。シーズン前はコーチがなかなか決まらず心配されていたというのに、今となってはこの二人の関係ほど、かたわらから見ていて面白いものはない。
「今シーズンはとりあえず様子を見ながら、と思っていたようですが、だいぶ真央ちゃん、主人(信夫コーチ)のペースにはまっていますよ。この何ヵ月かで、かなりお互いに気持ちがわかりあうようになったみたいです。真央ちゃんには孫みたいに接してるので、(小塚)崇彦の方が怒ってます。信夫先生、僕と扱いが違う! って(笑)」(久美子コーチ)
【坂本清】
新しいコーチとともに、天王山を戦い抜いた浅田真央。そのあきれるほどの頑固さと、美しいまでの強さ。全日本選手権だからこそ、見せられた強さなのか。全日本選手権だというのに見せられるほど、強かったのか。たぶん、その両方だ。
浅田真央だけでなく、最終グループの6人プラスアルファ。彼女たちそれぞれのストーリーがたくさん詰まった全日本選手権、女子シングル。やはり日本の女の子は、強い。
美しくなければ勝てない世界選手権へ
浅田も2011年3月に行われる世界選手権の代表メンバーに選ばれた 【坂本清】
強い女子3人を待ち受けるのは、おそらくファイナルメダリストのアリッサ・シズニー(米国)、カロリーナ・コストナー(イタリア)を筆頭に、長州未来(米国)、ラウラ・レピスト、キーラ・コルピ(ともにフィンランド)、そしてキム・ヨナ(韓国)という、世にも「素敵な」女子スケーターたちになるだろう。
シーズン前半、五輪で活躍した選手のうち何人かが第一線を離れていたためか、「ジャンプのレベルなどを見ると、男子に比べて女子のレベルは世界的に下がっている」などとも言われていた。しかし、グランプリシリーズを通して見ると、世界中で中堅スケーターたちの成熟ぶりが見られる面白い試合が多かったように思う。特にファイナルでメダルを獲得したコストナー、シズニーは、女子シングルはこうあってほしい、というお手本のような美しさを氷の上にみなぎらせ、強い日本勢さえもかわしてしまった。五輪前までは浅田真央、キム・ヨナの戦いの影に隠れていた選手たちが、五輪を越え、スケーターとして本物の輝きを帯び始めているように見えるのだ。
安藤美姫、浅田真央、村上佳菜子――強くなければ勝てない全日本選手権を越え、美しくなければ勝てない世界選手権へ。彼女たちの進化と変化を楽しみに待ちたい。
<了>