マリナーズ、ストーブリーグの補強状況は?=ウィンターミーティング舞台裏

丹羽政善

GMを囲んでのブリーフィング

ウェッジ新監督(右)を迎えたマリナーズ、オフの補強状況は? 左はズレンシックGM 【Getty Images】

 ウィンターミーティングの期間中、各球団が代理人らとの交渉に使っているホテルの一室に地元の番記者が呼ばれてブリーフィングというのが行われる。
 夕方になるとその球団広報を先頭に、記者がゾロゾロとエレベーターに乗り込む姿を見かけるので、それと分かる。

 ブリーフィングでは、GMがその日の動きについて簡単な説明を行い、記者の質問を受けるという流れ。もちろん何かが決まるまでほとんど核心を明かしてくれないので、記者らはつかんだ情報をぶつけながら、GMの腹を探っていく。

 12月7日(現地時間)、会議2日目のマリナーズのブリーフィングは、予定された時間から30分以上も遅れて始まった。

 ホテルの部屋に入るとき、マリナーズのエリック・ウェッジ新監督らとすれ違う。そのほか、見知らぬ顔も何人か。さすがにそんなところに代理人が残っていたのではうわさの元になるのでチームも失態を犯さないはずだが、仮に廊下で松井秀喜の代理人、アーン・テレム氏とでもすれ違えば、そんな情報はすぐにtwitterされて、こんなうわさが広まるに違いない……。

「松井、マリナーズ入りか!?」

 マリナーズの部屋の中は入って右側に小さなキッチンとバスルームがあり、左側がバーカウンターになっていた。ベッドはないが、あったと思われる場所には簡易テーブルといすが並べてあり、そこが交渉の舞台と容易に想像できた。

 記者らは、入って正面のソファーを勧められ、足りない分のいすは、ズレンシックGMが自ら人数分をそろえる。

「さて、始めようか」

 西日が差し込み始めた部屋の中で、ズレンシックGMがそう口火を切ったが、その意気込みに水を差すかのように彼の携帯のベルが鳴った。着信番号で誰がかけてきたかを確認すると、彼は「この電話には出なければいけない。失礼」と言って、「TALK」ボタンを押す。

 ブリーフィングに招かれていたのは8人だったが、一同が固唾(かたず)をのんでそれを見守り、電話の相手の声が漏れ聞こえるほど室内は静かに。誰と話しているのかと、誰もが知る限りの情報を声に重ね合わせたに違いない。

 先ほどの話ではないが、「あの声はテレムだ」と自信を持って言える人がいれば、「うん、うん、分かった。では、またあと電話する」と話すあとに続いたズレンシックGMの言葉をつなぎ合わせて、電話の意味を知ろうとするだろう。

 もちろん、ほぼ無理な話だが、それから20分ほど続いたブリーフィングの最中、あと2回ベルが鳴って、その都度、受話器から聞こえる声に誰もが耳を澄ませた。

過去2年とは打って変わって…

 その日のブリーフィングが終わって廊下を歩いていたときのことである。

 ズレンシックGMの隣に座っていた記者に対し、「電話をとるとき、着信番号が見えなかったのか?」とほかの記者から声がかかった。聞かれた若い記者は「そんなの無理だ」と言いながら、「トライしたけどね」と笑わせる。

 それは、マリナーズの番記者にとって、神経質な案件がないだけに成り立つ会話ではなかったか。

 そう、過去2年、このウィンターミーティングを舞台として、大きなトレードをまとめて来たマリナーズだが、いまのところまったく動きがない。こんなうわさがあるが、とぶつける情報すらない――、というのが現状である。

 もちろん、リッチ・ハーデン(レンジャーズ)やエリック・チャベス(アスレチックスからFA)に興味を示している、という話は出ているが、過去に比べればインパクトは小さい。

 ズレンシックGMも、「今、大型の話は考えていない」と話し、来季は若手にチャンスを与える意向。それは、2010年のシーズンが終わったときに口にした方針そのままで、そもそも、初めからウィンターミーティングでは動かないと見られていた。それだけに、ブリーフィングの内容もどこか活気がない。

 また、チームとして「FAの選手に関してはコメントしない」という姿勢を貫いているだけに、メディアも付け入るすきがない。

 会議初日(現地6日)、午後になって『FOXスポーツ』の電子版に、ジョン・ポール・モロシという記者が、「マリナーズが松井に興味を持っている」という記事を書いた。
 その日の夕方、ブリーフィングが終わってから、もう一人の日本人記者とズレンシックGMのところに行って、まず、「FA選手についてコメントをしないという方針は、変わらないですよね?」と念を押す。

 ズレンシックGMは「そうだ」と答え、「どうしてだ?」と言うので、「いや、まあ、うわさになってるんで……」と、匂わせたが、GMの顔には、はてなマークがいっぱい浮いていた。

「まあ、松井の名前が挙がっているんで」と具体名を出せば、ようやく合点がいったようだが、「なるほど、じゃああらためて言う。われわれはFA選手について、コメントしない」と苦笑した。

 本来ならば、コメントしないと分かっていてもネタをぶつけて、反応を探るところだが、一笑に付されては手応えも何もなく、そもそも記事全体の信頼性に欠けた。

 2日目のブリーフィングは開始が遅れたので、会場となったホテルのロビーに戻って来たときには、午後5時半を過ぎ、もうすっかり夜の雰囲気だった。

 そこを離れる前とは、若干、空気の違いを感じる。記者らの顔が違う。

 聞けば、エンゼルスがクリフ・リー(レンジャーズからFA)の獲得に動いていた。カブスもカルロス・ペーニャ(レイズからFA)にオファーしたようだ、といった話になっていた(ペーニャは8日にカブスと合意)。わずか1時間で場が動いていたのである。

 そのとき、会議2日目のマリナーズのブリーフィングのポイントは何だったかな、と頭でまとめてみる。

 しかし、すぐには何も浮かんでこなかった。

<了>
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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマーケティング学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。

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