新市場へとかじを切ったFIFA=ロシアとカタールのW杯開催が意味するもの

旧ソ連・東欧地域で初となるW杯

ロシアは2回目の投票で18年W杯開催国に決定。同国代表のアルシャービン(左)も駆け付けた 【Getty Images】

 12月2日、FIFA(国際サッカー連盟)理事会によって下された2018年、22年のワールドカップ(W杯)開催地が正式発表される30分前、ロシア紙『イズベスチャ』の解釈が明るみになった。それは、「ロシアが18年のホスト国の座を勝ち取るだろう。投票が同数だった場合は、FIFA会長のジョセフ・ブラッターがわれわれに味方してくれるだろうから(レギュレーションでは、同数の場合のみブラッター会長が1票を投じることになっている)」というものだった。

 結局、ロシアは14年ソチ冬季五輪に続き、旧ソ連・東欧地域で初となる18年W杯の切符を手にした。22年にはこちらも初開催となるカタールが選ばれた。
 当日の最終プレゼンテーションでは、これまで積極的に招致活動に参加してきたロシアで最も影響力を持つ人物――元大統領で現在は首相のウラジーミル・プーチンが急きょ、出席を取りやめるという奇妙な出来事が起こった。表向きは「招致レースが過熱する中、投票権を持つ理事たちに過度なプレッシャーを与えたくない」というものだったが、本当のところは分からない。いずれにしても、ソチ五輪招致でも大きな役割を果たした最高実力者の不在は、ロシアにとってマイナスになると思われた。

 しかし蓋を開けてみれば、意外なことにロシアの圧勝だった。下馬評の高かったイングランド、スペイン・ポルトガルという二大巨頭を抑え、決選投票を待たずに2回目の投票で招致を決めたのだ。22人(24名のうち2人は買収疑惑で活動停止となっていた)による投票のうち、2回目で過半数を超える13票を獲得した。1回目は9票。1順目で脱落したイングランドの2票と、1回目で4票を得たオランダ・ベルギーの半数がロシアに流れたのは間違いないだろう。スペイン・ポルトガルは1回目、2回目共に7票を獲得していたからだ。W杯開催決定を受け、プーチン首相はすぐさま飛行機でチューリヒ入りした。

ロシアへの追い風

 ロシアのサッカー界は近年、成長が著しい。UEFA(欧州サッカー連盟)主催のカップ戦でも、特にヨーロッパリーグ(前UEFAカップ)を中心に好成績を収めている。特に、ゼニト・サンクトペテルブルク、CSKAモスクワ、スパルタク・モスクワといったチームなどは能力のある選手を獲得し、それがリーグ全体のレベルを押し上げている。W杯はここ2大会出場していないが、ユーロ(欧州選手権)2008ではベスト4に入るなど、代表チームも力をつけている。

 とはいえ、それが招致結果に直接反映されるわけではない。ロシアの場合はプーチン首相を頂点に招致活動を推し進め、連邦政府が治安維持や財政保証を確約したことが大きかった。そこが、景気後退に沈むスペイン・ポルトガルなどとは一線を画したところだろう。また、イングランドは英紙のおとり取材によるスクープ、投票直前に放送されたBBCによるFIFA理事の賄賂疑惑の糾弾などで評価を落としたとされる。

 もちろん、22人の票がどのように流れたか、正確に知る由はない。票集めや票取引など日常茶飯事だ。その一方で、フリオ・グロンドーナ(アルゼンチン)、ニコラス・レオス(パラグアイ)、リカルド・テシェイラ(ブラジル)の3名がFIFA理事を務める南米サッカー連盟は、スペイン・ポルトガルの共催を支持すると11月26日に発表していた。その理由は「南米にとってスペインは母国のようなもの」だった。一般的には、投票の動機は、商業的あるいは文化的な利害関係によるものとみて間違いないだろう。

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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