岩隈、松井秀の行方は? GM会議の舞台裏=アスレチックスGMを追って

丹羽政善

最終日にア軍GMと接触

アスレチックスが岩隈(写真)の独占交渉権を得てGM・オーナー会議を迎えた 【写真は共同】

「こんな時間まで、私を待っていたのかい?」

 ホテルを出たところで声を掛けられると、アスレチックスのビリー・ビーンGM(ゼネラル・マネージャー)は、驚いて目を丸くした。

 それはもう、日の光りが力を失いつつあった先週18日(現地時間)、夕暮れのこと。足元の影が長く伸びていた。

 16日から始まったGM・オーナー会議は3日間の予定をすべて終え、それまでにほとんどのGM、オーナーは、会場となったディズニーランドに近いホテルをあとにしていたが、こちらとしてはアスレチックスがポスティングで落札した岩隈久志との交渉の進展が気になる。もちろん、彼らが松井秀喜に興味があるのかないのかも、もう一度確認しておきたい。

 ビーンGMの姿を朝から見ていなかったので、すでに帰ってしまった可能性もあったが、夕方ぐらいまでは待つつもりでいると、午後4時を過ぎてからロビーに現れた。
 何を聞かれるかを知っているビーンGMは、テレビカメラとマイクを向けられて、「FA(フリーエージェント)選手については、何も話せないと言ったはずだ」と相変わらず口が堅かったが、数日前と違って嫌がっているふうでもない。この数日間で、わずかながら距離が縮まったという印象を抱いた。
 ビーンGMは、「では、これからも追っかけますから」といったジョークにもにこやかに応じる。間もなく映画化される『マネーボール』の主人公にもなった彼は、「君たちはまだ帰らないのかい?」とさえ話しかけてきた。
 そのとき、「あなたと一緒の飛行機に乗ります」と返せば、データを重視し、冷徹なイメージさえあったあのビーンGMが、声を上げて笑った。

メディアに付け入るすきを与えず

 それまでの3日間、“食い下がる日本人メディア”VS.“ノーコメントを貫くビーンGM”という構図が確実にあった。

 GM・オーナー会議が始まる前日の夜、GMの夕食会があったため、多くの日本メディアはその日からコンタクトを図ったという。

 筆者は、16日の夜にオーランド入りしたため、その状況はほかの記者から聞いただけだが、「あとで話す」と言われたのにすっぽかされるなど、ビーンGMは明らかに避けていたそうである。これまでのGM会議でも彼はあまりメディアと積極的に話す方ではなかったというから、このまま話さないのでは、との憶測さえあった。

 ただ、16日の夕方に1日目の会議が終わると、GMらは一応メディアに対応することになっていた。義務かどうか分からないが、日米合わせ、少なくても50人を超える記者がいたのだから、リーグもわざわざ部屋をとって準備。ビーンGMが日本人メディアの前に立ったのはそのときが初めてだったが、さすがにもう観念した、という感じで両手を広げると、「何でも聞いてくれ」と彼の方から口を開いた。

 実際、そう言われると逆にやりにくいものだが、岩隈を落札したときの声明で、「契約が交わされるまでコメントをしない」と言っているが、その方針について変わりはないのかと聞けば、「システムを尊重する上でも、選手が契約書にサインするか、独占交渉権が切れるまではコメントすることはできない」と話し、松井に関してはオーナーが興味を持っているようだが、と問えば、「われわれは、時期がくればきっちりとFA選手について話をするけれども、この時期にコメントすることは適切ではない」と、付け入るすきを与えなかった。

「つまり、ノーコメントということだ」

 その限りでは、まさに取り付くしまもないという感じ。その後、入れ代わり立ち代わり、多くの日本人メディアがいろいろな聞き方で何かを聞き出そうとしたが、やはり彼のブロックは固い。結局、ビーンGMは40〜50分は日米のメディアに囲まれたが、松井の選手評価すら避けた。
 それは例えば、ホワイトソックスのケン・ウィリアムズGMが、「(獲得)リストに入っている」と話したり、タイガースのデービッド・ドンブロウスキーGMが、「われわれは、中軸を打てる打者が必要。必ずしも本塁打は必要としない。状況に応じた打撃をしてくれればね」と暗に松井獲得を示唆したのとは対象的。
 興味を持っていないのか、手の内を見せたくないのか。それすら判断がつかなかった。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマーケティング学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。

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