テクノロジー導入へ踏み出さざるを得ないFIFA
テクノロジーか、5人審判制導入か
今季からチャンピオンズリーグでも5人審判制が導入されている 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】
FIFAは「誤審も含めて人間が行うのがサッカー」という理由のほかにも、ビデオ判定で試合のスムーズな進行が妨げられること、世界中のすべてのカテゴリーで技術導入を行うことが不可能であるため、世界のスポーツとしての価値が損なわれるといったことを反対の主な理由に挙げていた。テクノロジー導入よりも5人審判制の試験運用を行ってきたのも、そうした理由によるものだ。今回、ゴール判定で新技術の導入を検討するにあたっても、用いられるシステムが「ゴールの是非を瞬時に、かつ的確に判別できるもの」としている。
IFABは5月、各大陸のサッカー連盟と各国サッカー協会に、ゴール前に副審を2人追加する5人審判制の試験運用を、さらに2年間行う選択権を与える決議を下した。08年のU−19欧州選手権の予選で初めて導入されたこの制度は、現在も各大陸の国際試合などで運用されている。
ヨーロッパでは、昨季からのヨーロッパリーグに加え、今季からはチャンピオンズリーグとUEFAスーパーカップでも導入(11−12シーズンまで)。9月に決勝トーナメントが行われたAFCプレジデンツカップでも採用され、11年のカンペオナート・カリオカ(リオデジャネイロ州選手権)、メキシコリーグの向こう3大会などでも導入が予定されている。
テクノロジー導入の行方
近年、世界のスポーツ界は確実にテクノロジー導入の方向へと動いている。テニス、ラグビー、クリケットなど、既に判定にハイテク技術を取り入れているスポーツにおいて、大きな問題は起きていない。もちろんプレーの流れが寸断されるということはあるが、見ている人々にとっては、より明確な判定が行われるということで歓迎している人も多い。
さらに、FIFAは06年のW杯・ドイツ大会決勝で起きた出来事を隠し続けている。イタリア対フランスの決勝で、アルゼンチン人レフェリーのオラシオ・エリゾンドは、マルコ・マテラッツィに頭突きを食らわせたジネディーヌ・ジダンを退場処分とした。
FIFA関係者の証言によれば、主審は問題のシーンを見ておらず、スペイン人の第4審判ルイス=メディナ・カンタレホに確認をして処分を下した。カンタレホはビデオで件のシーンを見ているのだ。つまり、ジダンへのレッドカードはビデオ判定によって下されたということになる。
もし、エリゾンド主審が第4審判に確認しなかったら――どのような結末になっていただろうか? 恐らく、ジダンは退場にならず、イタリア人選手たちが執ように抗議しただろう。もしかしたら、世界王者はフランスの手に渡っていたかもしれない……。
だが現実は、テクノロジーのおかげで頭突きをしたジダンに正当に退場処分が下された(ここでは、マテラッツィの挑発については立ち入らない)。だが、これは偶然の産物であり、公式にはこの判定は人間の目によって下されたとされている。FIFAとしては、主審がスタジアムの大型スクリーンでジダンの過ちを確認したなどとは言えないのだ。
ボールがゴールに入ったか否かを追跡するため、テクノロジーを使用することについて、FIFAはようやくはじめの一歩を踏み出した。だが、急いで事を進めたいとは思っていないようだ。この方向転換が現実のものとなるかは、時が教えてくれるだろう。
<了>