テクノロジー導入へ踏み出さざるを得ないFIFA
IFABの方針転換
ランパードの幻のゴールがきっかけの1つとなり、FIFAはテクノロジー導入の再検討を決めた 【Getty Images】
さかのぼること7カ月、IFABは3月6日に行われた年次総会においてレフェリーの判定にテクノロジーを導入することを却下した。「サッカーにハイテク技術を用いるべきか?」というシンプルな問いに「ノー」を突きつけたのだ。とはいえ、委員会が満場一致だったわけではない。北アイルランド、ウェールズ、FIFA(国際サッカー連盟)は反対。イングランドとスコットランドは賛成した。
FIFA事務局長のジェローム・バルクはこの時、「テクノロジーがサッカーを侵すべきではない。サッカーは人間のものであり続けてほしいし、それがサッカーの美というものだ」と語った。北アイルランド協会のパトリック・ネルソンも「これからもファンは試合について語り合い、楽しむのだ」と続けた。
「もし、ゴール判定において最新技術を導入するというなら、ほかのシチュエーションではどうか? オフサイド、物議を醸すようなプレーなど、いちいちビデオ判定を行うのか。われわれは、従来のゲームを持続させたいのだ!」とバルケ事務局長。ウェールズ協会のジョナサン・フォードは「しばしば試合が中断されるのをわれわれは望まない」と応じた。
W杯での大誤審
特に物議を醸したのが、決勝トーナメント1回戦のドイツ対イングランド戦だった。1−2で迎えた前半38分、フランク・ランパードのループシュートはゴールラインを越えていたが、主審はノーゴールの判定を下した。これが決まっていれば2−2となったはずだが、試合は1−4でイングランドが敗れた。アルゼンチン対メキシコでも、ゴールを決めたテベスのオフサイドが見逃されている。限られた状況において“人間の力”だけでは試合をさばき切れないことを、テクノロジー否定派も認めざるを得ない出来事だった。
すでにサッカーは世界的な事象となっている。不公平な判定は試合の成り行きや結果を左右するだけでなく、場合によっては両チーム間の関係悪化など、サッカーにおける政治的な衝突を招く可能性もあるのだ。テクノロジーの力を借りて不当な判定を解決することができるならば、それもひとつの方法である。
W杯欧州予選のプレーオフ第2戦、フランス対アイルランドでは、ティエリ・アンリのハンドが見逃されてウィリアム・ギャラスのゴールが生まれ、フランスが本大会への切符を手にした。ゴールのみならず、ハンドやオフサイドの判定にもハイテク技術を導入するかどうかは、議論の分かれるところではある。