巻き起こる「モンテネグロ旋風」
誰も知らない(?)モンテネグロ
ユーロ予選を戦うモンテネグロ代表。3戦全勝で首位を走る 【写真:Action Images/アフロ】
日本のサッカーファンなら、キリンカップで代表チームが来日したことを覚えているはずだ。07年6月に静岡で行われた試合で、日本代表は中澤佑ニと高原直泰のゴールで2−0と勝利。当時はイビツァ・オシム氏が日本の指揮官であった。また、現在名古屋グランパス所属のイゴル・ブルザノビッチは、モンテネグロ代表の主将としてプレーしていた。今回のコラムは、そんなヨーロッパの小国にスポットを当てたい。というのも現在、欧州のサッカー界に「モンテネグロ旋風」が巻き起こっているからである。
と、詳細を語る前に、サッカーとは関係ない小ネタを1つだけ披露しよう。それは、「日本とモンテネグロが交戦状態にあった」ことだ。この信じられないような話はモンテネグロ人なら誰でも知っているが、日本人は不思議と首をかしげる。事の発端は日露戦争(1904−05年)で、当時のモンテネグロ公国とロシア帝国は同盟状態にあった。つまり、日本の敵だったわけだ。戦争が終わっても、モンテネグロと日本の間には正式な講和条約が結ばれず、06年にモンテネグロがセルビア・モンテネグロから独立し再び単独国家になった際、この問題が沸き起こったのである(国際問題に大きく発展したわけではないが)。とはいえ、この件に関しては諸説紛々(ふんぷん)で、さまざまな見解がある。今ここで詳細を述べるのは避け、本題に移ろう。
おれたちは強い(?)
確かにモンテネグロ出身のデヤン・サビチェビッチ(現モンテネグロサッカー協会会長)、プレドラグ・ミヤトビッチといった名プレーヤーの存在は絶大であったが、後継者は生まれず、いまだに「おれたちは強い!」という、今となってはまったく根拠のない自信だけが残っているのである。つまり、本質的には「おれたちは強い“はず”!」というわけで、いざW杯予選が始まるとメッキがぼろぼろとはがれ落ち、最終的には全6カ国中5位、プレーオフに進出した2位アイルランドとの勝ち点差は9ポイントと、散々な結果に終わったのだった。
こうして、欧州では「やはりモンテネグロは大したことなかった」との見方がいっそう強まったのだが、現在行われているユーロ(欧州選手権)2012予選では、どうしたことか、第1戦から3連勝と最高のスタートを切っている。勝ち点9で首位を走るモンテネグロに続くのは、2位イングランド(勝ち点6)、3位ブルガリア(同3)、4位ウェールズ(同0)、そして最下位スイス(同0)。モンテネグロとブルガリアのみ3戦終了、残りチームは2戦という違いはあれど、8日には南アフリカ大会で優勝国スペインを下した唯一のチーム、スイス相手に1−0で見事な勝利を収め、今回の躍進ぶりが偶然ではないことを証明した。試合後、スイスのオットマー・ヒッツフェルト監督は「モンテネグロは予選最大のサプライズ」と舌を巻くなど、欧州中に一大センセーションを巻き起こしたのである。
3連勝したことで、地元メディアはこぞって絶賛の嵐。サポーターにも「“やはり”おれたちは強い!」といった意識が再度生まれるのは当然の流れで、12日に聖地ウェンブリーで行われるイングランド戦を前に、早くも楽観論が飛び交っているというから驚きだ。モンテネグロからしてみれば、まさに失うものは何もなく、たとえ敗れたとしても悲観論が漂うわけでもない。歴史的勝利を挙げようものならば、おとぎ話が今後も続くだけだ。そんな中、今年2月から指揮を執るズラトコ・クラニチャル監督は「ロンドンへショッピングに行くわけではない。サッカーをしにいくのだ」とコメント。これも3戦全勝を達成した男にしか発せられない強気な発言ととらえるべきだろう。