巻き起こる「モンテネグロ旋風」

聖地ウェンブリーでの挑戦

モンテネグロ代表を率いるクラニチャル監督 【写真:Action Images/アフロ】

 クラニチャルは、日本人にとって比較的なじみのある人物のはずだ。4年前のW杯・ドイツ大会では母国クロアチアを率いて、日本代表と対戦している(結果は0−0)。楽観主義者として知られるクラニチャルは「選手の能力に疑いはない。われわれのチームこそが(予選突破の)本命だ」と自信をもって話している。そんな彼の性格については賛否両論あるが、選手の心理を読み取り、鼓舞する能力に長けていることは間違いない。旧ユーゴの選手は勢いづくと本来の実力以上のものを発揮する不思議な“何か”を持っている。そんな選手の特異性をよく知る者が、チームの指揮官であることは大きな強みである。ちなみに、クラニチャルはクロアチアを率いたドイツ大会の欧州予選で、7勝3分けという素晴らしい成績を残して首位通過を果たした。今回のユーロ予選でも無敗であるのは、これまた驚きである。

 選手に目を向けてみると、まず名前が挙がるのがミルコ・ブチニッチだ。ローマ所属のFWは日本人にとっても名の知れた存在のはずだ。9月25日のインテル戦で挙げた後半ロスタイムでの劇的なゴールは記憶に新しく、モンテネグロ代表では22試合に出場し(セルビア・モンテネグロ代表としては3試合)、11ゴールを記録している。今回の予選でも、第1戦のウェールズ戦、第3戦のスイス戦で決勝ゴールをたたき込み、チームのエースとして十分な働きを見せている。

 彼以外にも、ドリブル突破と左足シュートが武器のシモン・ブクチェビッチ(スポルティング・リスボン/ポルトガル)、プレーメーカーのブランコ・ボシュコビッチ(D.C.ユナイテッド/米国)、守備の要マルコ・バシャ(ロコモティフ・モスクワ/ロシア)ら有能な選手を擁する。忘れてはならないのが、モンテネグロの至宝ステバン・ヨベティッチ(フィオレンティーナ/イタリア)で、弱冠20歳ながら、すでに欧州では最も注目すべきプレーヤーの1人として注目を集めている。ただし、今年8月に右ひざの前十字じん帯を損傷するアクシデントに見舞われ、全治6カ月と診断された。天才MFが復帰すれば、代表チームはさらなる輝きを放つだろう。

 わずか3試合の結果で、予選突破の可能性を議論することは時期尚早なのかもしれない。しかし、サビチェビッチ会長は地元紙『アレーナ』とのインタビューで、「現時点での勝ち点9は予選通過への大きなアドバンテージとなる」と話している。グループ最大の敵、イングランドとのアウエー戦で仮に勝ち点を得ることができれば、ポーランド・ウクライナ行きの切符がぐっと手元に近づくのは間違いないだろう。

 決戦を前に、クラニチャル監督も語気を荒げる。
「サッカーにおいて“絶対”という言葉は存在しない。弱者が強者に勝つ。イングランド戦でも同じことが言えるはずだ」
 予選前はノーマークだったモンテネグロ。ヨーロッパの小国が歴史的な快挙を成し遂げるのか。予選が終わる1年後、モンテネグロ人が「おれたちは強い!」と声高々に叫ぶのであれば、わたしは素直にそれを認めよう。

<了>

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著者プロフィール

1961年2月13日ウィーン生まれ。セルビア国籍。81年からフリーのスポーツジャーナリスト(主にサッカー)として活動を始め、現在は主にヨーロッパの新聞や雑誌などで活躍中。『WORLD SOCCER』(イングランド)、『SID-Sport-Informations-Dienst』(ドイツ)、日本の『WORLD SOCCER DIGEST』など活躍の場は多岐にわたる

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