C大阪、昇格1年目のJ1優勝へ=好調の理由、リーグ終盤への課題
システム変更で生まれた攻撃の流動性
懸念された香川が抜けた穴は、清武(右)が十分に埋めている 【写真は共同】
香川の欧州移籍により、香川、乾、家長のトリオはわずかな期間しか目にすることはできなかったが、狭いスペースをドリブルとワンツーで素早く打開していく彼ら3人の攻撃は、日本の新たな攻撃の可能性を感じさせ、見る者を魅了した。懸念された香川が抜けた穴も、現在は大分ユースが生んだ才能・清武が埋めている。“個”の能力では香川に劣る清武だが、ドリブル、パス、シュートと攻撃における技術レベルが総じて高く、タッチ数を少なく簡単にプレーするリズムが全体に好影響を与えている。
さらに戦術的特長を追及していくと、守備に関しては、攻撃のための守備が徹底されていることが挙げられる。ベタ引きで守るのではなく、攻撃の第一歩としての守備である。“攻撃は最大の防御”を地でいき、攻守の切り替えを早く、守備の時間を減らし、攻撃の時間を増やすことにベクトルが向けられている。
その攻撃に関しては、シュートにつながるポゼッションの意識付けを、日々の練習でクルピ監督がたたき込んでいる。単なるボール回しに終わらずに、ボールを回す中で縦への意識を常に持ち、ボールを持った選手は、まず前を向く。時に単調になり、縦に急ぎ過ぎるきらいもあるが、そこは背番号10のマルチネスや家長が程よく緩急をつけ、リズムを作っているのである。
チーム力が試されるのはここから
さらにクルピ監督は、今季はモチベーターとしての能力も遺憾なく発揮している。シーズン前は、「昨年の広島にできたのだから、ウチにできないことはない」とサンフレッチェ広島への対抗心をあらわにし、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場圏内を今季の目標に掲げた。シーズン序盤に得点を奪えず苦しんだ香川に対しては、「あのメッシでも点が取れない時はある」と言って、彼の自尊心を刺激。また、現在の乾、家長、清武の3シャドーに対し、「真司にあって、君たちに足りないものは得点力だ」と言い続け、フィニッシュへの意識向上を日々促している。最近は、米国のオバマ大統領の決めぜりふ、「YES! WE CAN」がお気に入り。公の場で頻繁に用いることで選手を鼓舞し、勇気を与えている。
このように、さまざまな要因が重なり合い、前評判を上回る躍進を続けているC大阪だが、本当のチーム力が試されるのはここからだ。チームとしての修羅場の経験値不足や、選手層の薄さといった不安要素もある。意気揚々と敵地に乗り込んだ9月18日の第23節・G大阪との大阪ダービーでは、試合開始早々に食らった電光石火の2得点が最後まで響き、手痛い敗北を喫した。
「経験が浅いチームの負け方をした。2度と繰り返してはいけない」と茂庭が反省すれば、乾も「相手の勢いにのまれた」と悔やんだ。また、「この位置(順位)での、これからのシーズンの過ごし方に慣れていない選手も多い」(高橋)のも事実。夏場を突っ走ってきた疲労が、秋口にかけて一気に襲い掛かってこないとも言えない。内なる敵に、相手からの厳しいマーク。これらの壁を打ち破って、目標とするACL圏内で今季を終えることができるのか。残り11試合。C大阪の行く末を、注意深く見守りたいと思う。
<了>