ワールドサッカーの新たな序列=W杯後の監督人事

王者・スペインは引き続きデルボスケが指揮

フランスのブラン新監督は、果たしてチームを立て直せるか 【Photo:ロイター/アフロ】

 7月11日に幕を閉じたワールドカップ(W杯)・南アフリカ大会は間違いなく、世界のサッカー界に、1つのサイクルの終わりと始まりを刻んだ。今や過去のこととなりつつあるかもしれないが、南アフリカでは光と影が映し出され、成功と失敗が繰り返された。結果、成果を残すことができなかった強豪国の監督は首をすげ替えられた。あるいは、指揮官の去就がメディアをにぎわせている国もある。

 スペインは自らの理想を貫き、強さと美しさを兼ね備えたサッカーで世界王者に輝いた。ユーロ(欧州選手権)2008を制してから2年――RFEF(スペインサッカー協会)は、優勝監督のルイス・アラゴネスに代えてビセンテ・デルボスケにチームを託し、昨年末に12年までの契約延長を行ったことに満足しているだろう。今後の日程は世界チャンピオンにしてはリスキーなもので、8月11日にメキシコシティでメキシコと、リヒテンシュタインとのユーロ予選を挟んで、9月7日にはブエノスアイレスでアルゼンチンと親善試合を戦う。

4年前のファイナリストの衰退

続投が濃厚と見られたアルゼンチンのマラドーナ監督は、協会との交渉が決裂して解任へ 【Getty Images】

 スペインが南アフリカ大会までにたどった道は、06年にドイツで行われたW杯決勝の舞台に立っていたイタリアやフランスのそれとは全く異なる。すべてが平行線を描いていたと言ってもいいだろう。4年前のファイナリストは結局、最後まで自分たちのプレーを見いだすことができなかった。
 オーストリアとスイスの共催だった08年のユーロでは、フランスはグループリーグ敗退、イタリアも準々決勝でスペインに敗れた。共に惨敗と言える結果だったが、片やイタリアはロベルト・ドナドーニを解任。片やフランスは、圧倒的な世論の反対を押し切って監督のレイモン・ドメネクの続投を決めた。W杯本大会の切符は、プレーオフの末に何とか手にしたものの、開幕前にはすでに大会後の退任が決まっていた。

 フランスの南アフリカでの戦いぶりは、ピッチ内外でひどいものだった。ニコラ・アネルカがドメネクに暴言を吐いたとされることから始まった一連のスキャンダルは、フランスの過去の栄光さえも失墜させかねないものだった。最終的に、フランスサッカー協会は誰もが疑いを持たない決断を下した。自国開催で優勝した1998年のW杯メンバー、ローラン・ブランを新指揮官に据え、心機一転を図ったのだ。そこには、ジネディーヌ・ジダンの明白なバックアップもあった。ブランは先ごろ、南アフリカ大会の代表メンバー23名を、8月11日のノルウェー戦で招集しないことを発表。親善試合とはいえ、強いメッセージを打ち出した。

 イタリアもまた、フランス同様に06年以降は下降線をたどり続けた。優勝監督のマルチェッロ・リッピは長い“休暇”を取るため、W杯後に辞任。だがその2年後、ユーロで結果の出なかったイタリアは、再びリッピに“アズーリ”(イタリア代表の愛称)を託した。だが、チームのクオリティーを引き上げるには十分ではなかったようだ。指揮官が直面したのは、選手の高年齢化、新鮮味のなさである。そして結局、パラグアイ、スロバキア、ニュージーランドと同居し楽だと言われていたグループリーグで、1勝すらできなかった。リッピは本大会前に退任の意を表明しており、後任には前フィオレンティーナ監督のチェーザレ・プランデッリが就任した。

それぞれの事情

 南アフリカ大会でベスト16入りを果たした韓国はホ・ジョンム監督が退任し、チョ・グァンレが新しい監督となった。ベスト8止まりに終わった王国ブラジルは、ドゥンガを解任してコリンチャンスのマノ・メネゼスを新指揮官に任命。CBF(ブラジルサッカー連盟)は当初、フルミネンセのムリシ・ラマーリョと交渉を行っていたが、最終的にはメネゼスに白羽の矢が立った。新監督が、今後どのようなサッカーをしていくのかはまだ未知数だ。
 ただひとつ言えるのは、ブラジルとしては、2014年の母国大会で是が非でも優勝しなければならないということである。1950年W杯の「マラカナンの悲劇」を再現するわけにはいかないからだ。当時、ブラジルは決勝リーグでウルグアイに敗れ、スタジアムで心臓発作を起こす人、リオの街で自殺する者などが相次いだ。

 ほかの南米勢では、ウルグアイのオスカル・タバレス、パラグアイのヘラルド・マルティノ、チリのマルセロ・ビエルサは協会との契約を更新しそうだ。4位のウルグアイを筆頭に、彼らは南アフリカで株を上げた。
 そして、いずれとも全く異なるケースがアルゼンチンである。W杯準々決勝でドイツに惨敗し、後味の悪い形で帰国したアルゼンチン。だが、国内では将来に向けて真剣な議論が交わされていない。週明けには、ディエゴ・マラドーナは4年間の契約延長にサインするだろう(編集部注:27日にマラドーナとグロンドーナ協会会長の契約交渉が決裂し解任)。アルゼンチンにとってのノルマは、来年に控えたコパ・アメリカ(南米選手権)優勝だ。

 そのほか、厳しい時を過ごしているのは、メキシコのハビエル・アギーレである。理想的な監督であり、W杯でもチームは決勝トーナメントに進出したが、指揮官への批判は免れなかった。メディアでは、アルゼンチン人のリカルド・ラ・ボルペの再登場をはじめ後任の名前が飛び交っている。
 その一方で、アフリカ勢の監督人事に関するニュースはなかなか入って来ない。南アフリカだけは、今後は前任者のカルロス・パレイラのように外国人監督とは契約しないことを決めているが、あとの国々は未確定である。アフリカ勢は8強のガーナを除けば、地元の南アフリカ大会で振るわなかった。アフリカは、外国人指揮官にとって手放しで働きやすい環境とはいえず、一筋縄では決まらないのも道理かもしれない。

 8月11日には世界各国で親善試合が行われる。引き続き、現監督の続投、新監督就任の話題がメディアを賑わすことだろう。

<了>
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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