松井秀、後半戦の鍵は左投手の攻略

小川勝

好不調の波が激しい前半戦

なかなか打率が上がらない松井秀。今季は珍しく左投手に苦戦している 【Getty Images】

 エンゼルス移籍1年目、松井秀喜の打撃成績がいまひとつだ。
 前半戦を終えて、85試合で打率2割5分2厘、10本塁打、47打点。今年は左ひざの状態もよく、すでに14試合でレフトの守備についている。昨年より試合には出ているのだが、どうも打率が上がってこない。月別の打率を見ると、
 4月=2割7分3厘
 5月=1割8分4厘
 6月=3割1分8厘
 7月=1割9分4厘
となっており、1カ月ごとに上がったり下がったりしている。もちろん、過去のどのシーズンを見ても、月別にある程度の上下はあった。だが打率1割台の月があるというのは、松井にとっては珍しいことだ。
 なぜ、これほど低迷が極端なのか。どのようなケースにヒットが出ていないのか、打率の中身を分析してみたい。

左投手との対戦成績が1割台

 まず目につくのは、指名打者(DH)の時と、レフトの守備についた時の違いだ。DHで出た70試合では打率2割2分5厘。これに対して守備についた14試合では打率3割8分8厘も打っている。ということは、守備につく試合を増やせば打率も上向くように思えるが、現実はそうはいかないだろう。守備を増やせば左ひざにかかる負担も増える。マイク・ソーシア監督も松井本人も、左ひざに関して危ない橋を渡ることはできない。
 さらに言えば、松井の場合、もともとDHの試合より、守備についている試合の方が若干成績は良かった。昨年までの大リーグ通算で、DHの時は「2割8分4厘」、守備についた時は「2割9分4厘」。今年はこれが極端に出ているわけで、例年と違う傾向が出ているというわけではない。

 では、例年と違う傾向が出ているのはどの部分なのか。それは、左投手との対戦成績だ。本来、松井は左投手を相手に成績が下がる打者ではなかった。昨年までの大リーグ通算で、左投手に対しては打率「2割9分4厘」、右投手に対しては「2割9分1厘」だった。つまり、わずかながら、左投手と対戦した時の方が打率は良かったのだ。
 しかし今年は、左投手との対戦成績が「1割8分8厘」。右投手とは「2割8分5厘」だから、こちらはほぼ例年通り。打率が上がってこない一番の原因が、左投手からヒットが出ていない点にあることは明らかだ。これほど左投手に手こずる松井というのは、非常に珍しい。

 前半戦、左投手との対戦は54試合で101打数19安打だった。19本のヒットのうち本塁打が5本、二塁打が3本だから、長打を打つ確率は比較的高い。そのかわり、3.7打席に1回の割合で三振しており、三振する率も高い(右投手に対しては5.8打席に1回しか三振していない)。つまり、左投手と対戦した時は、外野手の前に落ちるようなシングルヒットが少ないということだ。単純化して言えば「当たればホームラン」というフルスイングが多いということだろう。
 後半戦で数字が上向くとしたら、このフルスイングを続けて、ボールをしっかりとらえられるようになるか、あるいは、難しいボールはファウルで粘って、四球がもう少し増えるか、そのどちらかだろう(前半戦は左投手から5四球しか選んでいない)。

レンジャーズ戦の打撃に注目

 こうした左投手との対戦結果を反映して、カード別の打率成績にも極端に数字の低いカードが二つある。
レンジャーズ戦 0割5分9厘(17打数1安打)
ホワイトソックス戦 0割7分1厘(14打数1安打)

 レンジャーズ戦もホワイトソックス戦も、今季前半戦で5試合ずつ出場しているが、合計31打数2安打(6分5厘)しか打っていないのである。レンジャーズ戦ではC.J.ウィルソン、ダレン・オリバーという2人の左投手、ホワイトソックス戦でもジョン・ダンクス、マット・ソーントンといった左投手に封じ込まれている。後半戦に浮上できるかどうかは、レンジャーズ戦がカギになりそうだ。
 というのも、後半戦の日程を見ると、ホワイトソックスとの対戦は9月に3試合残っているだけだが、レンジャーズ戦は、7月22日(現地時間、以下同)から4連戦、さらに7月30日からまた3連戦という予定になっている。このレンジャーズ戦7試合で、どのような打撃ができるか。それによって、今年の成績をある程度占うことができそうだ。

 松井は過去、前半戦を終えて打率の低かった年が2年あった。06年は前半戦「2割6分1厘」だったものの、シーズン終了時には「3割2厘」。09年も前半戦「2割6分5厘」だったが、後半戦で盛り返して「2割7分4厘」まで上がっている。そのまま上がって来なかった年は一度もないのだから、期待はできる。

 エンゼルスは、西地区首位のレンジャーズと4.5差。地区優勝のために、松井がレンジャーズ戦で結果を出すことが必要だ。その意味でも、まずは7月22日からの直接対決4連戦が注目のゲームになる。

<了>
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著者プロフィール

1959年、東京生まれ。青山学院大学理工学部卒。82年、スポーツニッポン新聞社に入社。アマ野球、プロ野球、北米4大スポーツ、長野五輪などを担当。01年5月に独立してスポーツライターに。著書に「幻の東京カッブス」(毎日新聞社)、「イチローは『天才』ではない」(角川書店)、「10秒の壁」(集英社)など。

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