イルレタ氏「日本は最も驚かされた代表チームの1つ」=3人のスペイン人指導者が見た岡田ジャパン

小澤一郎
 日本はワールドカップ(W杯)・南アフリカ大会で、自国開催だった2002年大会をのぞくと、初めてアウエーの地で決勝トーナメント進出を果たした。カメルーン、オランダ、デンマークと同居したグループリーグでは、オランダには敗れたものの2勝1敗の2位でグループリーグを突破。パラグアイと対戦したラウンド16では、120分を戦っても0−0と決着がつかず、最後はPK戦の末に敗退した。海外の指導者たちは、今大会の日本代表の戦いぶりをどのように見たのか。3人のスペイン人指導者に話を聞いた。

イルレタ氏「日本と韓国はアジアのレベルが上がっていることを証明した」

イルレタ氏は「攻守のバランスが整っていた」と日本を評価 【ロイター】

「今大会で最も驚かされた代表チームの1つ。素晴らしい戦いを披露したと思う」

 日本がパラグアイ戦で敗れた試合直後、現在はアスレティック・ビルバオで下部組織の責任者を務めるスペインの名将ハビエル・イルレタ氏は、今大会の日本の印象をこう語ってくれた。

「守備をベースにしたチーム。大会を通して、守備ブロックの作り方、リトリート(※一度退却してから守る戦術)の仕方がうまいと感じた。ただ、守備だけしていてもサッカーは勝てないし、評価されない。結局、今大会の日本が良かったのは、攻守のバランスが整っていたからこそだ。チームとしてしっかり守り、その後、前線に残したスペースを本田(圭佑)を軸とするカウンターで有効活用していくスピーディーな攻撃ができていた」

 とはいえ、パラグアイ戦での日本は攻め切れない場面、攻撃面で物足りない部分があったのも事実だ。この点について問うと、「そうした声があるのは理解できるが、W杯のような大きな大会、ミスが許されない決勝トーナメントの試合では、手堅いサッカーや戦い方が要求される。パラグアイも日本から得点を決められなかったのだから、わたしは日本の攻撃がそれほど悪かったとは思っていない」との回答が返ってきた。

 また、イルレタ氏は今大会で日本と韓国というアジア2カ国がグループリーグを突破した点を自ら取り上げ、「日本と韓国はアジアサッカーのレベルが上がっていることを証明した。4年後、8年後の大会では、アジアの代表チームが欧州や南米の強国とがっぷり四つの試合をして勝つまでになっているかもしれない。4年後が非常に楽しみだ」と語ってくれた。

 今後、日本サッカーがより発展していくための方法や方向性としては、「選手が欧州のトップレベルのリーグやクラブでプレーすることが一番の近道」と指南。イルレタ氏は「欧州のクラブはこの大会を機に、より日本人選手に注目すると思うし、わたし自身、今後はより多くの日本人選手が欧州でプレーすると確信している」と前置きした上で、「日本のような欧州と言葉も文化も全く異なる国の選手が活躍するためには、選手としてのみならず、人間としての適応力が求められる。そうした厳しい状況が、競争力や野心のある選手を作り出す。今大会のグループリーグで南米が底力を発揮したのは、選手の大半が欧州でプレーしているからだ」と説明した。

アスカルゴルタ氏「本田のFK、キープ力、テクニックが素晴らしかった」

「オカちゃんの手腕も評価すべき」とアスカルゴルタ氏は旧友を称賛 【Getty Images】

 続いて話を聞いたのは、日本サッカーをよく知るハビエル・アスカルゴルタ氏だ。彼は1997年から1シーズン半、横浜マリノス(現横浜F・マリノス)を率いた経験があり、現在はスペイン国内でテレビやラジオの解説者を務めている。今大会は日本の初戦となったカメルーン戦の解説を務めた。アスカルゴルタ氏にも同様に、日本の敗退が決まった後、日本の戦いぶりを総括してもらうべく話を聞いた。

「大会を通じて日本からはポジティブな印象を受けた。ポジションバランスの良い守備と、アグレッシブな攻撃で決勝トーナメント進出を決めたのだから当然だろう。出場した選手全員のパフォーマンスと仕事ぶりが良く、胸を張って帰国することができる大会だったのではないか」

 マリノスを指揮していた時には、中村俊輔にプロデビューの機会を与え、岡田武史監督との面識もある(今大会の解説時にも「オカちゃん」の愛称で呼んでいた)アスカルゴルタ氏だけに、今大会直前に中村俊をスターティングメンバーから外した指揮官の起用法についても質問してみた。だが、「もちろん、シュンスケを使わないことに最初は驚いた。ただ、直前で日本代表にどういう変化があったかは詳しく知らないので、はっきりしたことは言えない」と率直な感想のみにとどまった。

 また、今大会の日本代表で目に付いた選手としては、「まずは本田。デンマーク戦でのフリーキック弾のみならず、前線でのキープ力やテクニックが素晴らしかった。また、松井(大輔)のプレーも気に入ったし、マリノス時代に指導していた遠藤(彰弘)の弟(保仁)が活躍していたこともうれしかった」と3選手の名前を挙げた。加えて、「これだけオーガナイズされたチームを作ったオカちゃんの手腕も評価すべきだろう。大会前には相当批判されて苦しい時期もあったのだろうが、アミーゴ(知人)として、今回の日本の活躍は本当にうれしかった」と岡田監督への賛辞も忘れなかった。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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