「侍に屈したライオン」、吹き荒れる監督批判=日本に敗れたカメルーン国内の反応

木村かや子

本田のゴールで「墓場の沈黙」

エトー(右)をサイドに配置して失敗するなど、ルグエン監督(左)への批判はすさまじい 【Photo:ロイター/アフロ】

 カメルーンの喜びと不安の入り混じった空気は、失望と怒りのそれに変わった。大会前から批判の声が強かったのだから、“不屈のライオン”(カメルーン代表の愛称)が、十分倒せる相手と見なされていた日本に、この上なくふがいないありさまで敗れた後、国民がいかに深く失望に沈み、その怒りがいかに激しく燃え上がったかは、想像がつくだろう。

 仲間とともに英雄の殊勲を祝おうと、ある電話会社の計らいでドゥアラ(ここはエトーが生まれ育った町でもある)の町中に備え付けられた大スクリーンの前に集った約7000人の住民たちは、試合前にお祭り騒ぎを繰り広げ、国歌演奏の際には選手たちとともに誇らしげに歌っていた。しかし、祝いの宴(うたげ)は39分(本田のゴールで日本が先制した時間)で終わる。地元の新聞は、その様子を「墓場の沈黙」という言葉で表現した。試合終了のホイッスルが鳴った瞬間は「葬儀の終わりのようだった」という。

 彼らの失望は、単にカメルーンが負けたからという理由だけではなかった。雄々しく戦うライオンの勇姿を期待していた国民たちは、最後の15分を除き、潤滑なプレーはもちろん、果敢さもチームスピリットも見せられなかった代表の姿にあぜんとしたのである。あるファンは「自分の目が信じられない。これが不屈のライオンだなんて……」とつぶやいた。それは、エトーの「カメルーンは優勝を目指すべき」という発言が大きく報道され、夢が膨らんでいた矢先のことだった。

「ルグエンの無能さは前代未聞」

 無垢(むく)な一般国民が失望に打ちひしがれた一方で、ある程度のサッカー通のファンたちは怒りに走った。エースとしての働きを見せなかったエトーや、存在感のなかったマクーンへの批判も多かったが、何より、カメルーン代表のフランス人監督、ポール・ルグエンへの個人攻撃にはすさまじいものがあった。

 大会前から、選手の起用法に批判が出ていたが、にもかかわらずルグエンが固執した4−3−3システムでは、カメルーンの選手たちが力を発揮できていなかった。実際、選手たちは試合の大半を通し路頭に迷っているかのような印象を与えたが、その様子を目にしたファンたちは、「ルグエンの頑固さが代表の潜在能力を台無しにした」と激怒。特にエトーをセンターフォワードで起用しなかったこと、またヘディングはうまいがドリブルがほとんどできないとされるウェボをサイドに配置したこと、またカメルーンで最も才能あるGKとされるカメニをプレーさせなかったことを猛烈に批判した。

 カメルーンで最も人気のあるサッカーサイト『カメフット』に寄稿したファンたちは、「まだ、ルグエンを首にするための4日間がある」と次々に解雇を要求。「ルグエンの無能さは前代未聞。主力のほとんどが、本来の役割ではないポジションでプレーしている」「彼はカメルーンサッカーの文化をまったく理解していない」「彼がなぜレンジャーズとパリ・サンジェルマンから追い出されたがよく分かった」「ルグエンはフランス人だから、カメルーンの行方のことなど大して気にしていないのだ」「やつはわが国の顔に泥を塗った」と歯に衣を着せない個人攻撃を仕掛けた。

 カメルーンの新聞は、一般ファンほどあからさまな罵倒(ばとう)はしなかったものの、ディフェンスの選手のポジショニングミスや、中盤の創造力の欠如、攻撃陣の機能不全を指摘しつつ、やはりルグエンの戦略的選択を酷評。前述の『カメフット』は、23人の招集メンバーから始まって、起用選手、システムなどの選択の過ちを挙げ、「彼のメッセージはまったく選手に伝わっていない」と切った。また、『カメライオン』という別のサイトは、試合翌日に「ルグエンの外れの采配(さいはい)」と題された原稿の中で、「相変わらず選手の選択とポジションを模索していたルグエンは、チームを敗戦に導いた」と語り、エトーをセンターに移すのに80分も待ったことをはじめ、ありとあらゆる戦術的ミスを並べ挙げた。

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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