「侍に屈したライオン」、吹き荒れる監督批判=日本に敗れたカメルーン国内の反応

木村かや子

反フランス感情までが高まりそうな勢い

エムボマは「日本のセンターバックが強固」と分析し、カメルーンの戦略の間違いを指摘した 【ロイター】

 一方、日本に関しては「グループEで最も弱いとされる相手に対し……」と、日本を格下とみなしていたことをほのめかしながらも、日本の組織力を「非の打ち所のない」という言葉でたたえた。『カメライオン』は、日本のパフォーマンスを「守備面で堅固、攻撃面で実現力があった」と表現。ちなみに、試合報道のタイトルとして最も多かったのは「不屈のライオン、日本の侍に屈服させられる」(『アフリカ・プレス』)というたぐいのものだった。カメルーン代表の愛称、不屈のライオン(Les Lions indomptables)に引っ掛け、「屈しないはずのライオンが日本に屈した」と皮肉ったわけである。どこも考えることは同じのようで、同様のタイトルが、フランスの『レキップ』紙も含め、少なくとも5媒体で使われていた。

 とはいえ、当然ながら現地の反応は日本を称賛することよりも、自チームの問題分析の方に集中していた。南アフリカで取材にあたる『トリビューン・ダフリカ』のニジカム記者は「われわれは日本に敬意を払っていたし、決してなめてはいなかった。しかしこのグループの中で、日本が倒さねばならない第一の相手だったことは事実。特にこの試合、序盤は双方にミスがあり、お手上げと感じるほど日本が圧倒していたわけではなかっただけに、国民はいっそう歯がゆさを感じた」と語る。

「得点シーンでは、松井の正確なパス、そのワンチャンスを逃さなかった本田の冷静さと決定力は見事だったが、こちらのマークのミスもあり、また本当にワンチャンスだった。後半に(岡崎のシュートが)ゴールポストをたたいた場面があったが、これはGKハミドゥが相手FWの前にボールをこぼすというミスを犯したからだ。そして何より、われわれのチームのアタックが機能していなかった。エトーを擁しながらも、彼を下がらせたため、その力が活用されていない。エムビアのミドルシュートがクロスバーに阻まれ、ゴールが入らなかったのは大きな不運だったが、彼はDFだ」

 選手では、その期待の大きさゆえ、エトーがやり玉に挙がったが、それはルグエンが彼を4−4−2のセンターフォワードで起用していないせいだと見る向きも多い。また松井のクロスの場面で、大久保に釣られて中央に入り、本田をノーマークにしてしまったエムビアのミスも指摘されたが、彼は強化試合の多くでセンターバックとしてプレーし、そのポジションに定着したかに見えていた。それゆえ、適任者がおらず問題視されていた右サイドバックに突如移されたエムビアに、一瞬の錯覚が起きたとしてもそう不思議ではないという意見も出た。

 つまり、すべての批判はルグエンに立ち戻るのだ。『カメフット』のムルー・ムグナル記者は「日本戦の日、ルグエンは選手選択における入れ込み、ためらい、限界を露呈し、それがライオンたちの闘志を封印してしまった」と書いた。一般ファンの中には、ルグエンに「カメルーンはおろか、二度とアフリカ大陸に足を踏み入れるな」と毒づく者さえいる。果ては、ルグエンのみならず、彼を監督に選んだ協会会長も解雇しろという声も。ルグエンがフランス人であることから、反フランス感情までが高まりそうな勢いなのだ。

エムボマ「カメルーンの戦略的チョイスは間違っていた」

 代表OBたちはどうだろうか。元カメルーン代表のスターで、フランス国籍も持ち、試合日はカメルーンと日本に精通する人物としてフランスのテレビ局『カナル・プリュス』の解説者を務めたパトリック・エムボマは、現地記者に意見を求められ、遠慮がちにこう分析していた。
「戦術やポジショニングなど、かなりのことに失望した。ルグエンはこのやり方でワールドカップ(W杯)予選を突破したので、その形で続けたことは非難できない。気になったのは、前半のカメルーンが日本の強みである(ディフェンスの)センターにロングボールを投げ込んでばかりいたことなんだ。日本の2人のセンターバック(中澤と闘莉王)は非常に強固だ。カメルーンの戦略的チョイスは間違っていたと思う」

 また、「テストを繰り返してきたのになぜ改善が見られないのか?」と聞かれたエムボマは「おそらく監督はテストをやりすぎたのではないか。いろいろな選手を試しすぎると、一貫性がなくなり、それゆえ選手は自分がやるべきことも、自信も見失ってしまう。今は、プレーを変えるという意味での小さな奇跡が必要だ。われわれには、舵(かじ)を正すための時間が4日ある。過去にテストのための多くの時間があったが、それが実りのないものだったことが、日本戦で明らかになった」と答えていた。

 一方、元カメルーン代表監督のジュレ・エヌヨンガは「日本選手はスピードがあり、潤滑にボールを回す能力を持つが、カメルーンだって非常に良い選手を擁している。残念ながら、わが代表は“チーム”ではなく、ただの選手の寄せ集めだった」と語る。「次の試合で第1戦で使ったシステムを使う意味はまったくない。われわれの伝統である4−4−2に戻るべきだ。スピードはなかったとしても、この形でならプレーを築くことができる」

 カメルーンは今、もうW杯が終わってしまったかのように意気消沈している。しかし、前向きな見解もないわけではない。敗戦から一夜明けた15日、『カメフット』は、ウェブサイト上で「ライオンは1つの戦いで敗れたが、まだ戦争に負けたわけではない。エムビアはポジショニングミスで本田をフリーにしてしまったが、クロスバーを直撃する見事なシュートを放った。最後の15分の彼らは勇敢だった」と国民の士気を煽ろうと努め、その上で「エトーがセンターにポジションを変えること、これはデンマーク戦の必須事項だ」と続けた。

 つまり、希望を保とうと努めている記者、OB、一般のファンまでもが、寄ってたかってチームのシステム、選手の選択やポジションを指図しているのだが、ルグエンがそれに耳を傾けるか否かは別の話だ。いずれにせよ、本田の一発がルグエンとカメルーンの“結婚”に事実上の終止符を打ったことだけは、ほぼ間違いなさそうである。

<了>

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著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。マルセイユの試合にはもれなく足を運び取材している。

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