オーストリアのメダリスト養成所!?=「シュタームス・スキー学校」の強さの秘密

小林幸帆

メダリスト養成所

「シュタームス・スキー学校」の施設外観 【小林幸帆】

 ノルディックスキージャンプの09−10シーズン、個人タイトルはスイスのシモン・アマンが独占したが、チームとして敵なしの強さを見せつけたのはやはりオーストリアだった。
 史上最強とも言われる今のオーストリアは、2月のバンクーバー五輪、3月のフライング世界選手権(スロベニア)と、団体で予定通りの金メダルを獲得。2005年世界選手権以降の大きな大会では、団体戦優勝を一度たりとも他国に譲っていない。

 今季のワールドカップ(W杯)でも、個人総合ではグレゴア・シュリーレンツァウアーの2位を先頭に8位までに5選手、国別成績でも2位ノルウェーの倍以上となる6858ポイントを稼ぎ、堂々の6連覇。さらに、W杯参戦を目指す選手の大会であるコンチネンタルカップに至っては、個人総合優勝を含めベスト10に8選手も送り込む独壇場を形成。もはやその強さは末恐ろしいとしか言いようがない。

学校内にはクライミング施設も設置 【小林幸帆】

 オーストリアで今季W杯ポイントを稼いだ選手は12名いるが、彼ら共通のキーワードが「シュタームス・スキー学校」なのだ。12選手中10選手が同校の卒業生または在校生であり、残り2選手のうち1選手も途中で転校と、ジャンプ選手の9割以上がシュタームス育ちということになる。
 他種目に比べ、ジャンプ選手の同校出身率が高いのは事実だが、バンクーバー五輪のノルディック複合団体では、同校卒業生4人によるチームが金を獲得、アルペンも約半数の選手が同校出身と、彼らは70年代後半から数々のメダルやタイトルを獲得して来た。 言ってみればメダリスト養成所ともいえるシュタームスとは、一体どんな学校なのだろうか。

卒業まで残るのは7割弱

アルペン、ジャンプ、クロカンといろいろな種類の板が置いてあるスキー板の保管室兼ワックスルーム 【小林幸帆】

 インスブルック近郊、人口1300人の町・シュタームスに立つ学校の名称は「シーギムナジウム・シュタームス」(シュタームス・スキー学校)。
 スキーを意味する「シー」、中高等教育機関を意味する「ギムナジウム」から名づけられた学校で、設立のきっかけは1966年のアルペン世界選手権での惨敗だった。
 スキー王国を守るための手立てが考えられた結果、フランスのスキー学校を手本に国内初のスキー学校として翌67年に創立されたのが始まりで、当初はアルペンのみだったが、3年後にはノルディックコースを設置。今ではアルペン、ノルディック3種目、バイアスロン、スノーボードの計6コースが設けられている。

トレーニングなどの移動用に専用バスやバンも所有。シーズンが近くなれば、これに乗って近場の雪山でのトレーニングも増える 【小林幸帆】

 今では国内に他にもスキー学校が3校あるが、やはり名門はシュタームスで、現在、男子生徒113名、女子生徒54名が教職員50人のもと寮生活を送っている。
 14歳でシュタームスに入学すると、大学入学資格を目指すギムナジウムまたは職業学校の2コースに分かれて学ぶが、競技との両立の難しさから前者の在校期間は5年、後者は4年と、通常より1年遅れての卒業となる。
 なかには、ノルディック複合のトリノ五輪二冠のフェリックス・ゴットバルトのように、ギムナジウム過程は5年で修了も、卒業(大学入学)資格試験は3年ほど先延ばしという選手もいるとか。入学生の3割超が両立の困難や進路変更、学業または成績不振などで退学(転校)ということから卒業の難しさがうかがえるが、入学も狭き門だ。

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著者プロフィール

1975年生まれ。東京都出身。京都大学総合人間学部卒。在学中に留学先のドイツでハイティーン女子から火がついた「スキージャンプブーム」に遭遇。そこに乗っかり、現地観戦の楽しみとドイツ語を覚える。1年半の会社員生活を経て2004 年に再渡独し、まずはサッカーのちにジャンプの取材を始める。2010年に帰国後は、スキーの取材を続けながら通訳翻訳者として修業中。

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