『野球王国』復権のためのアプローチとは!?=高校野球春季四国大会リポート

寺下友徳

甲子園における四国勢の厳しい現実

春季四国大会を危なげない戦いで制した高知高 【寺下友徳】

3月23日・第3日 高知高(高知) 5対6 神港学園高(兵庫)
3月26日・第4日 今治西高(愛媛) 5対6 三重高(三重)(延長10回)
3月27日・第5日 川島高(徳島) 2対3 大垣日大高(岐阜)(延長10回)
 今春のセンバツにおける四国地区代表3校の全結果である。「今までやってきた相手投手のモーションを盗むことをタイミングを計ってやってくれた」(北谷雄一監督)とキャプテン藤畠慶祐の3盗塁に代表されるように全てを出し切った21世紀枠の川島高の健闘は光った。しかし、終わってみれば鳴門商高(現:鳴門第一・徳島県)、宇和島東高(愛媛県)、土佐高(高知県)が出場した1993年第65回センバツ大会以来となる全校初戦敗退。四国の高校野球関係者にとっては実にショッキングな結果が提示された。

 さらに言及すれば四国勢は2004年第76回大会における済美高(愛媛県)以来遠ざかっている優勝はおろか、ベスト8以上も熊代聖人(現:王子製紙)を主戦に擁した2007年夏の今治西高以来ない。甲子園での複数勝利すら08年第80回センバツ大会で2勝をあげた明徳義塾高(高知)を最後に4大会なし。過去には甲子園で春15回(香川県3回、徳島県5回、愛媛県4回、高知県3回)、夏11回(香川県2回、徳島県1回、愛媛県6回、高知県2回)の優勝回数を数え、全国に「野球王国」の名を轟かせてきた四国地区の高校野球は、今まさに深刻な低迷期を迎えているといえよう。

各校、各選手の新たなアプローチ、始まる

2年連続甲子園を狙う藤井学園寒川高のエース高橋 【寺下友徳】

 しかしながら、四国各県の春季大会優勝校(香川県:藤井学園寒川高、徳島県:小松島高、愛媛県:野村高、高知県:岡豊高)と香川県春季大会準優勝校の丸亀高、そしてセンバツ出場3校の計8校が高知県に集い、5月1日から3日まで開催された「第63回春季四国地区高校野球大会」においては、各校、各選手が現状を打破すべくさまざまなアプローチを試みる姿が見られた。

 例えば、1回戦では丸亀高を12対2、準決勝でも野村高に7対0とコールド勝ちするなど3試合通じて危なげない戦いで3年ぶり9度目の優勝を飾った高知高では、1カ月前に投手から捕手に転向した松窪海斗(2年)が攻守に渡りはつらつとしたプレーでチームをけん引。島田達二監督が仕掛けるチーム内競争の核となる彼の出現は、「ディフェンス面の強化とエース級に対するスイング対応」を甲子園で勝つためのポイントとしている高知高にとって、この上ない収穫となったのは間違いない。

 また、準優勝に輝いた藤井学園寒川高のエース、高橋涼平(3年)は「カウントを取るフォークと三振を取るフォークを投げ分ける」自らの特性を発揮し、1回戦・川島高、準決勝・岡豊高をいずれも1失点完投と抜群の安定感を披露。高知高との決勝では登板機会がなかったが、桜町中時代は全日本軟式野球選手権大会3位、昨春以来県内公式戦負けなしという豊富な経験に、「スピードもほしいですがスピードは急に速くならないので、コントロールを意識した」という発想の転換を加えた投球術は、今大会の好投で全国と伍するレベルまで達しつつあることが明らかになった。

甲子園出場経験のない学校の活躍光る

 また、これまで甲子園出場経験のない学校の活躍も今大会では光った。過疎化が進む西予市野村地域一丸となってのチーム強化が実った野村高は初の四国大会で1勝を挙げた。1985年第57回センバツで伊野商高を初出場初優勝に導いた山中直人監督が率いる岡豊高は昨秋に続いて四国大会ベスト4に進出。1回戦では常時140キロ台の速球と縦横スライダーを駆使する田内亘(3年)がセンバツ出場の今治西高を完封した。

 大会を通じて見れば本塁打はわずか2本。最速140キロ超えの投手も田内のみと個人にスポットを当てれば物足りなさが残った部分も否めないが、これも生みの苦しみの1つ。完全なる戦国時代に入った勢力図の中からどんな学校が「野球王国復権」の旗を甲子園に立てるのか。今後も四国高校野球の動向からは目が離せない。

<了>
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著者プロフィール

1971年、福井県生まれの東京都東村山市育ち。國學院久我山高→亜細亜大と進学した学生時代は「応援道」に没頭し、就職後は種々雑多な職歴を経験。2004年からは本格的に執筆活動を開始し、07年2月からは関東から愛媛県松山市に居を移し四国のスポーツを追及する。高校野球関連では「野球太郎」、「ホームラン」を中心に寄稿。

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