小林大悟、欧州だから強まった日本代表への思い=もう一人の海外組が語る挑戦の軌跡

了戒美子

従来のケースとは異なる海外挑戦

今年1月に移籍したギリシャのイラクリスで小林は8試合に出場し、2アシストをマークした 【Photo:IML/アフロ】

 小林大悟が欧州移籍を果たして約1年半が経過した。ノルウェー1部のスタベイクで1シーズンフルに戦い、今年1月からはギリシャ1部のイラクリスに移籍。すでにシーズン後半を迎えていたギリシャリーグでは10試合を戦った。移籍当初こそ、オフ明けのためコンディションが整わずチームメートに追いつかなかったが、徐々に出場機会をつかみ、最終的には中心選手としてシーズンを終えている(先発6試合、途中出場2試合、0得点・2アシスト)。

 短期間に2チームを経験した小林の欧州挑戦は、あらためて振り返ってみると過去の海外日本人移籍のパターンに当てはまるものではない。例えば、王道として考えられるのは中田英寿以降の、小野伸二、中村俊輔、名波浩らのようにJリーグで実績を残し、さらには日本代表で確固とした地位を確立し、いわば看板とプライドを背負った形でのチャレンジ。あるいは、森本貴幸のように18歳という若さでの欧州移籍や、そこまで若くはなくても五輪を前にした23歳に達していない時期に移籍した本田圭佑、水野晃樹のような例もある。これらのパターンに当てはまらないないのが小林のケースだ。

 小林は日本代表の主力でもなければ、これから成長を求めてチャレンジするほどの若手でもなかった。もちろん、日本での評価は決して低くはない。玄人好みの高いスキルは所属した東京ヴェルディ、大宮アルディージャのどちらでも信頼を置かれた。だが、その傑出した能力は評価されつつも、優勝を争う強豪クラブでプレーしたことはなく、オシム・ジャパン時代に代表デビューを飾ったとはいえ、代表経験はほぼないに等しい。それでも、欧州で2クラブをすでに渡り歩き、どちらのクラブでも中心選手の座をつかんでいる。いわゆる4大リーグ(イングランド、スペイン、イタリア、ドイツ)と言われるような華やかな舞台ではないが、日本代表の主力クラスの選手たちでさえ跳ね返される欧州で、こんなにもすんなりと溶け込む姿は、従来のケースとは違った新鮮さがある。

生き抜くすべは「自分らしくいられるか」

 代表選手ではないが、外国人選手として高い年俸を受け取り、「助っ人」としてプレッシャーが掛かる状況で、期待通りの活躍を披露するのは難しい。だが、小林はそうした重圧を、ひらりひらりと軽やかにかわしているかのように映る。
「海外挑戦、欧州移籍というと、どうしてもそこの(国の)言葉を一生懸命勉強して、オープンな外国人みたいになって、無理してでもそこでコミュニケーションをとってなじまないといけないというイメージがあると思う。でも、僕がこの1年半で感じているのはそういうことではなくて、自分らしくいられるかということ」

 小林の素直な本音でもあるのだが、これは海外移籍を果たした選手からあまり聞かれる言葉ではないだろう。必要以上に力むことなく、緊張することもない。だが、殻に閉じこもるのでもなく適度にオープンに、つまりはありのままの自分を出すこと。これがこの1年半で彼が感じた、生き抜くすべだ。
「こっちも外国に行っているのだからいろいろな物事や選手に興味がある。それと同じくらい向こうだって日本人に興味があったり、自分に興味を持ってくれたりする。だから、別に奥さんと一緒とか、マネジャーと一緒とかでなくても大丈夫なはず。無理に明るくして、社交的になる必要もなくて普通にしていればいい。だから、気負うことさえなければ、ヨーロッパでプレーできる日本の選手はいくらでもいると思う」

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著者プロフィール

2004年、ライターとして本格的に活動開始。Jリーグだけでなく、育成年代から日本代表まで幅広く取材。09年はU−20ワールドカップに日本代表が出場できないため、連続取材記録が3大会で途絶えそうなのが気がかり。

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