小林大悟、欧州だから強まった日本代表への思い=もう一人の海外組が語る挑戦の軌跡

了戒美子

欧州で気づいた日本代表の重み

自身の成長について、小林(右)は「ゴールを意識したトラップ」を挙げた 【Photo:IML/アフロ】

 ノルウェーもギリシャも外国人選手が多いため、英語、ポルトガル語をはじめ多くの言語が飛び交う環境だ。そのせいもあり、言葉がさほどできないことに引け目を感じることもない。実際のところ、小林は欧州で1年半を過ごした今でも英語を勉強中だ。「話せるようになった気がしたり、やっぱり通じないなと感じたり」を繰り返している。ありのままであることに加えて、その過程を楽しめさえすれば多くの日本人選手にチャンスはあるのではないだろうか。

 ただ、実際に移籍するにあたっての苦労は小さくなかった。初めて欧州に渡った昨季も、今季も契約にこぎ着けたのは移籍マーケットが最終段階に入ってから。クラブにとって小林は2番手、3番手の候補だったということに過ぎない。だからこそ、欧州に渡ってから強くした思いがある。
「やっぱり日本代表に入りたい。ヨーロッパに行きたいと思って、代理人に頑張ってもらったけど、それでも苦労するのは代表歴がないから。代表でもない日本の選手にどうやってヨーロッパの人が興味を持てばいいのか。それさえ分からないと思う。代表に入っていないから良かったこと(精神的にプレッシャーが少ない)もあるけれど、こっちに来てからはやっぱり経歴として大事だって強く思うようになった」

 Jリーグでプレーしていたころには、決して口にすることのなかった日本代表への思いを吐露する。小林はもともと、あまり大きな目標を口にするタイプでない。それだけに、切実な思いと、精神面の充実がうかがえる。また、実際のプレーに対して深まった自信の表れでもある。
「ノルウェーでの1年間でうまくなったと感じるのはトラップの部分。もうこれは全然違う。考えるのはまずゴールのこと。でかくて速い相手がいて、なおかつ日本のような芝のピッチじゃなくてぐちゃぐちゃなところで、ゴールを意識したトラップをどうするかというところが一番変わったと思う」

4年後にブラジルで活躍する可能性も……

 自信がついたからこそのギリシャへの移籍。事前にギリシャリーグへのイメージがあったわけではないが、知名度に比して低くないレベルであることを知り、ステップアップを決断した。
「ノルウェーとギリシャの違いは、ボディーコンタクトの激しさ。ノルウェーはでかくて速さはあるけれど、ギリシャの方がもう少しつなぐサッカーをする。あとは、リーグのトップのチーム、オリンピアコスやパナシナイコスといったヨーロッパでもトップと言えるチームがあること。モチベーションも変わるし、ぐっとレベルが上がる。どちらにも共通するのは、攻撃の選手としてゴールに向かうチャレンジで失敗することは許されている。チャレンジしないことはイコールミス。それが中盤で横パスの多い日本でのプレーとの違い」

 Jリーグでは“圧倒的に高い技術はあるが、どこか怖さのない選手”に過ぎなかった。しかし、今は「ゴールへ向かう意識」と「トラップの上達」を自ら口にする。ここまで言われると、国内でその姿をもう一度見てみたくなる。どれだけ成長したのだろうか。Jリーグという物差しで測れれば、と思わずにはいられない。そして、日本代表でも。年齢の壁など超えて、2014年ワールドカップ・ブラジル大会で活躍する可能性だってないとは言い切れないだろう。
「この先、日本でプレーする日も来るだろうけど、やっぱり、ただもっとうまくなりたい。基本的にはそれだけなんですよね。もちろん、スペインでやってみたいとかあるし、日本代表だって全然あきらめていない。それに抱いている野望も実はありますけど……。まだ言わないです(笑)」

 27歳、サッカー選手としての円熟期に差し掛かりながら、いまだ進化を感じさせる小林大悟。海外組とはいえ、スポットライトを浴びるような場所にはいない。それでも「もっとうまくなりたい」一心でノルウェー、ギリシャを駆け抜けた。その道がどこまで続くのか、今はまだ誰も分からない。だが一つだけ言えるとすれば、“大悟”は今後も自然体で、軽やかに、ひらりひらりと世界を舞うことだろう。

<了>

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著者プロフィール

2004年、ライターとして本格的に活動開始。Jリーグだけでなく、育成年代から日本代表まで幅広く取材。09年はU−20ワールドカップに日本代表が出場できないため、連続取材記録が3大会で途絶えそうなのが気がかり。

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