“タレント軍団”パナソニックを支えたキーマン=バレーV・プレミアリーグ男子総括

田中夕子

清水「スパイクを打ち切る」

苦しい局面でも、常に攻めの姿勢を見せた清水 【坂本清】

 福澤が「安定感」を課題としたように、清水は「苦しいときでも必ず打ち切り、確実に得点に結びつけること」を自らに課していた。
「ブロックが目の前に並んだ時に、一瞬でも『決められるかな』と弱気になったら、絶対に決まらない。『全部自分が決めてやる』という気持ちで、ラリー中も宇佐美さんに『(トスを)持って来い!』と自分から呼ぶようになりました」

 決勝でも、こんな場面があった。11−12と堺が1点リードして迎えた第2セット、福澤が打ったレフトからのスパイクを堺のリベロ・井上裕介がレシーブ。続けて堺の石島雄介がレフトからノーマークで豪快にスパイクを放ったが、今度は永野が好レシーブでボールをつなぎ、ジョンパウロ、エンダキ・エムブレイ(堺)の両チームエースが壮絶な打ち合いを繰り広げる。まだ試合中盤とはいえ、一発勝負では1点が試合の行方を大きく左右することは、両チームともよく分かっている。粘って、拾って、つなぐ。
 バックライトから、宇佐美を呼ぶ声が響いた。
「持って来い!」
 2枚のブロックを打ち破り、清水の左腕が長いラリーに決着をつけた。
 エースとして、確かに見せた成長の証し。日ごろはめったに選手を褒めることのない南部正司監督からも「苦しい場面、相手に『ここは清水しかない』と警戒されているところでも、よく打ち切った。まだ課題はありますが、いい働きをしてくれました」と合格点が与えられた。

勝利に不可欠な存在、リベロ永野

リベロの永野。相手に傾きかけた流れを引き戻した 【Photo:築田純/アフロスポーツ】

 清水、福澤が今季成長を遂げたのは確かだが、実は、他チームの選手から、最も嫌がられたのは若きエースの2人ではない。
 日本代表でもサーブレシーブの要として活躍する、米山裕太(東レ)が言った。
「パナソニックのキーマンは、実は永野ですよ。崩れたところで一気にたたこうとしても、永野の声やプレーがチームを立て直しているんです」
 昨年、福澤や清水が内定選手として活躍してきたように、永野もパナソニックが優勝したおととしから内定選手としてコートに立ち、経験を重ねてきた。チームの主将、36歳のリベロ、小糸敬夫も永野を手放しで称(たた)える。
「ここは拾えるはずがない、という場所に必ずいる。“次にボールがどこに来るか”を読む力、レシーブ力は抜群です。相手にとっては、本当に嫌な選手だと思いますよ」

ガッチリと抱き合うセッターの宇佐美(右)とセンターの枩田。メンバー全員が優勝に沸き立った 【坂本清】

 決勝でも、それを象徴するシーンがあった。
 第1セットをパナソニックが先取した後の第2セット終盤。21−18とパナソニックがリードしながら、石島のサーブで崩され、21−23と堺が逆転。マークの厳しい清水や福澤ではなく、宇佐美は枩田のスパイクを選択したが、これも拾われ、チャンスボールは堺へ。レフトから北島武(堺)がブロックの間を抜き、コート奥へとスパイクを放つ。コース、威力ともに申し分なく、またも堺が得点かと思ったところで、永野がそれを拾いラリーが継続し、再びレフトから打った北島のスパイクを、最後は宇佐美が1枚でブロックした。
 ピンチをしのぎ、得点につなげた宇佐美のブロックに会場は沸き立ったが、相手のセットポイントになりかねない局面を回避できたのは、宇佐美の身体能力や読みもさることながら、その前の永野のレシーブがあったからこそなせた技だ。
 勝負の世界に「タラ」「レバ」はないが、もしも北島のスパイクがあのままコートに落ちていたら、勝者は変わっていたかもしれない。

「つなげば、必ず点を取ってくれる。僕にできることは、拾って、声を出すことぐらいですから」
 スパイクやブロックで得点を取ることができないリベロの、勝利につながる大きなプレー。決して、派手ではない。だが、相手に渡しかけた流れを再び引き戻し、勝者となるために不可欠なプレーであったことは間違いない。

 開幕当初、南部監督が掲げたチーム目標は「誰が、どこから見ても素晴らしいと評価されるチームになること」。キャリアの豊富なタレント軍団だからこそ、一人一人が地に足をつけて、コートの内外で各々(おのおの)の役割に徹する。
 これならば、勝たないはずがない。やはり、その力は本物だった。

<了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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