東レ3連覇の裏に隠された木村沙織の苦悩=バレーV・プレミアリーグ女子総括
木村を襲った重圧
MVPを獲得した木村沙織は、苦悩を乗り越え、東レのエースに成長した 【坂本清】
昨年、おととしも東レはプレミアリーグを制した。だが、2年前はベタニア・デラクルス(ドミニカ)、昨年は張紅越(中国)という大エースがいた。今季もシンシア・バルボッサ(米国)はいるが、大砲と呼ぶには程遠い。それどころか、レギュラーラウンドではメンバーから外れることもあったほどだ。
おのずと、攻守両面にわたり、木村にかかる負担が増えた。時にそれがいら立ちにもつながり、思うようなプレーができなかった悔しさを抑えきれずに、試合後タオルを投げつけ、イスを蹴ったこともある。自分にかかる責任の大きさが分かっているからこそ、ふがいない自分に腹が立った。
「いかに自分が周りを頼っていたのか実感させられました。今までも『何とかしよう』と思ってはいたけれど、今年は『何とかしなきゃいけない』と思うようになりました」
セミファイナルラウンド3戦中2試合がフルセット、体の疲労はピークに達していた。何とかファイナルラウンド進出を決めたが、試合の日が迫ると気持ちが高ぶり夜は寝つけず、食事ものどを通らない。
そんな木村は、滋賀からファイナルラウンド開催地の東京まで移動する新幹線の車中で、うたた寝をした。ぼんやり見た夢の中に、対戦相手であるJTのエース、キム・ヨンギョン(韓国)が出てきた。寝ながら、思わずレシーブの手を出して、隣に座っていた宮田由佳里(東レ)を驚かせた。
「ごめん、ヨンギョンのスパイクが夢に出てきちゃって」
「サオリさん、(レシーブ)上がりました?」
「うん、上がった。もうバッチリ」
寝ても覚めてもバレーのことばかり考えていた。こんなことは、初めてだった。
徹底された“キム・ヨンギョン対策”
チーム力でJTを上回った東レは、女子史上初の3連覇を達成した 【坂本清】
「勝負どころは絶対にヨンギョンに(ボールが)上がる。それならば、ヨンギョン以外の選手を機能させないように抑え込もう。そうすれば、絶対ボールはつながると信じていました」
まず、警戒したのはセンター線、特にセミファイナルラウンドで52.5パーセントのスパイク決定率をたたき出した山本愛を抑えること。第1セット2−2の場面で、さっそく木村がブロック1枚で山本のクイックをシャットアウト。たたいた両手を握りしめ、叫んだ。
「ヨシ!」
そして狙い通り、16点を越えたころから、キムの打数が増え始めた。レフトから放たれる、鋭角に突き刺さるようなスパイクは手の打ち様がなかったが、サーブはもちろん、スパイクもキムがいるコースを狙い、少しでもボールに触らせるようプレッシャーをかけた。何しろ、今シーズン、圧倒的な力で勝ち続けたJTをけん引し続けたのがキムだ。ただ打たせるだけでは以前と同じ、わかっていても止められない。ファイナルラウンドでは、“キム・ヨンギョン対策”とも言うべきブロック&レシーブのシフトを敷いた。東レの菅野幸一郎監督が明かす。
「ブロックはストレートを締めて(打たせないようにし)、クロスに濱口(華菜里)、木村、中道(瞳)を入れて守備を固める。レシーブの位置取りも、細かく徹底した約束事を、選手が実践してくれました」
1セット目の後半から、強烈なスパイクを何本も拾い、チャンスを作り出したのが木村だった。
「絶対に(レシーブを)上げると必死だったし、上がってきたトスは何とか1点にしてやろうと思っていました。とにかく一生懸命だったから、よく覚えていないんです」