東レ3連覇の裏に隠された木村沙織の苦悩=バレーV・プレミアリーグ女子総括

田中夕子

JTエースのキムと木村、お互い認め合う存在

JTのエース、キム・ヨンギョン。木村沙織とはお互いの実力を認め合い、刺激しあっている 【坂本清】

 韓国の大エース、キムは21歳、木村が23歳と年齢が近い二人。ともに攻撃と守備をこなすウイングスパイカーであるなど、二人の共通点は多い。
 レギュラーラウンドの最中、キムは日本に来て得られた収穫を問われ、こう言った。
「(木村)サオリの打ち方、コースの狙い方を見て参考になることがたくさんありました」
 そして、こうも付け加えた。
「本当にうまい選手だし、『自分も頑張らなきゃ』と刺激を与えてくれる存在です」
木村にとっても、キムはライバルであるとともに、お手本でもあった。
「元の高さだけじゃなく、ひじを下げず、きれいに伸ばした一番高い打点からすごくきれいな打ち方をしてくる。スパイクコースにも幅があるし、勝負どころでもムキにならない。ヨンギョンから学ぶことが、いっぱいありました」

 だからこそ、負けたくない。
 キムのスパイクを木村が拾えば、木村のスパイクをキムも負けじとレシーブする。20点を越えてからは、互いが一歩も譲らない、決勝戦にふさわしいエース対決を繰り広げた。だが、両チームの間に、実は微妙な違いが生じていた。
「いいところで中道選手が荒木(絵里香)選手を使った。そこから撹(かく)乱されて、相手のサーブがよくなった。あれが、決勝で勝ってきた経験なのかもしれませんね」
 JT・石原昭久監督も脱帽した、終盤で見せた中道のトスワーク。木村、木村で攻めた序盤、中盤から一転し、終盤は荒木やレフトの迫田さおりをうまく使う。28−26で第1セットをもぎ取ると、2セット目以降は迫田、宮田を使い、攻撃の組み立てに変化を加える。なおかつ崩れたトスや、ラリーの最後は木村が打ち切ってフォロー。みるみるうちに両者の点差は広がった。
 3セット目は一度もリードを許さず、終始、東レが先行した。木村がレフトから放ったクロススパイクでマッチポイントに到達すると、最後はレフトからのキムのスパイクがサイドラインを割り、試合終了。今季最高と呼ぶに値する完ぺきな試合運びで、東レがストレートでJTを退けた。

荒木「サオリのMVPが本当にうれしい」

 試合後、JTの竹下佳江が言った。
「勝負どころでミスをせず、一発勝負で必ず決め切る東レの強さは本当に素晴らしかった」
 最後に、チーム力でJTを上回った東レ。そして、その中心にいたのが間違いなく木村だった。勝利直後のコートインタビューの最中に、木村に最高殊勲選手賞(MVP)を受賞したことが告げられた。
「三連覇がうれしすぎてピンと来なくて、びっくりしました。自分はMVPをもらえるような選手だと思っていないから、考えもしませんでした」
 呆然(ぼうぜん)とする木村の周りで、チームメートが大喜びして手をたたく。中でも、一番うれしそうにしていたのが荒木だった。
「拾って、打って、チームの中心として大活躍してくれました。私もチームもサオリに頼りすぎてしまったぐらいなのに、どんな状況でも本当に頑張ってくれた。優勝したことも嬉しかったけれど、サオリがMVPだったことが本当にうれしかったんです」

 MVPに続いて、ベスト6も受賞。表彰の際、キムの隣に並んだ。賞金の目録とトロフィーを指差しながら、キムが笑顔で言った。
「よかったね」
 木村も満面の笑みを返した。
「対戦相手として、ヨンギョンはすごく嫌な相手だったけれど、日本で一緒にプレーすることができて本当によかった」

 木村にとって、得られた喜びも、これまでの2年間とは比べものにならないほど、大きなものだった。

 <了>

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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