世界王者・高橋大輔が示した4回転への意思=世界フィギュア男子シングル総括
日本男子初の世界チャンピオンに輝いた高橋大輔 【坂本清】
バンクーバー五輪後、そんなことを話していた高橋大輔(関大大学院)の意地が、フリー冒頭の4回転フリップに込められていたのだろう。
バンクーバー五輪でも、4回転を回避してプログラムをまとめていたら、金メダルは高橋のものだった、と多くの人が言った。しかしそれでも4回転にチャレンジしたのは、「チャンピオンには4回転が必要」という彼の意思表明。以前の「4回転時代」を知っていて、自身もかつてはフリーで2度決められるクワド(4回転)ジャンパーだった、その誇りが、五輪での「4回転回避」を許さなかったのだ。
しかし今回の世界選手権。集ったメンバーを考えると、「4回転を跳ばなければ優勝」が、確実な試合だった。練習ではクリーンな4回転をほとんど跳べていない。この状況で4回転トーループではなく、史上誰も成功したことのない4回転フリップに挑戦……。
「確かに無謀かな、とは思いました(笑)。でも、フリップをトリプルにして結局ほかのジャンプを失敗したりしたら悔しいかな、と思ったので」(優勝後のインタビュー)
ちょっと照れながら自らの挑戦を茶化しはするが、やはり本音はあの言葉、「4回転を跳ばないでチャンピオンになるのは嫌だ」に尽きるのではないかと思う。
4回転フリップを着氷はしたものの認定されなかったことで、男子シングルの世界チャンピオンは、3年連続4回転の成功なし、となった。しかし高橋は、3年ぶりに「4回転ジャンプに挑戦した世界チャンピオン」になった。
五輪からくすぶる4回転論争に決着
高橋大輔の4回転挑戦が男子シングルの4回転論争に決着をつけた 【坂本清】
今回、4回転ジャンプを2度成功させながらもほかのジャンプでミスが続き、プログラムにも流れがなかったブライアン・ジュベール(フランス)は3位。また「論争」の中心人物でもあるエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)も、高橋の優勝には納得だろう。クリーンな成功ではなかったとしても、「チャンピオンには4回転が必要」という宣言を含んだ演技で、高橋は優勝したからだ。
来シーズン以降のことを聞かれても、「ショートプログラムから4回転を入れられるようにしたいですし、トーループ、フリップ、ともに4回転を練習していきたい。僕は、けがをする前は4回転をフリーに2回入れられていた。そのことにもこだわっています。体は元に戻ったけれど、技術的にも前の自分に戻りたいから。そのために練習を続けます」と話す。
この高橋の言葉に、「ダイスケがフリップならば、僕は4回転ルッツに挑戦しますよ!」とジュベールが返したことで、記者会見場はなごやかな笑いで包まれた。
過去2年の世界選手権、そしてバンクーバー五輪。どの試合よりも、さわやかな決着を見た今大会の男子シングル。この誰もが納得する結果を生んだのが日本の高橋だということを、誇りに思いたい。
彼の挑戦、そして主張。それは現在、「男子フィギュアスケートには4回転が必要!」という思いで、誇りを持って4回転にトライしている世界中の選手たちにも、勇気を与えるはずだ。
高橋がつくったソチへの潮流
そして彼らに勝つためには、「やはり4回転は必要!」という思いを、若手や挑戦者たちも抱きながら、この1年、そしてソチ五輪に向けての4年間を送っていく。それはバンクーバー五輪ではなく、今回の世界選手権で高橋が生んだ潮流だ。
五輪後の少しまったりとした雰囲気の世界選手権。優勝候補たちがそろわない中で、なんとなくこのメンバーから新しいチャンピオンが生まれるだけ……。誰もがそんな気分で、すっかり油断をしていた。
五輪後の世界選手権、こんなに大きな意味のある大会に高橋がしてくれるとは、予想もしていなかった。
<了>
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