大宮、塚本とともに闘うシーズンの幕開け=上位進出へ臨戦態勢整う

土地将靖

「お題目」ではない上位進出

深谷(中央)ら守備的な選手を中心に大胆な補強を行った大宮だが、チーム作りは順調のようだ 【写真提供:大宮アルディージャ】

 いよいよJリーグの2010シーズンがスタートする。これまでをベースにプラスアルファを積み上げてきたチーム、一方では、新戦力を交えた組織の構築に手間取るチームと、開幕への準備状態はさまざまだ。だが、時は待ってくれない。いやが応でも、3月6日に新シーズンは開幕して「しまう」のだ。

 2季目の張外龍体制となる大宮アルディージャはどうか。守備的な選手を中心に大胆な選手補強を行い、不安すら覚えたサポーターもいたのではないか。だが、ここまでのチーム作りを見ていると、約3分の1もの選手を入れ替えたのも、目指すサッカーを推進するために必要な「血の入れ替え」だったと理解できる。

 2月13日に開催された「さいたまシティカップ」の水原三星ブルーウィングスとのプレシーズンマッチは、衝撃的ですらあった。キャンプ疲れの残る未完成のチームを相手にした結果、という側面は確かにある。だが、ハードトレーニングに明け暮れたグアムキャンプを3日前に終えたばかりの大宮の選手たちにとっても、それは同じこと。5−0というスコアはもとより、昨季よりもはるかにアグレッシブに生まれ変わったチームに、観客は目を見張ったはずだ。
 毎年掲げる上位進出という目標も、今季はただの「お題目」では終わらない。新シーズンへ、大宮の臨戦態勢は整った。

「攻撃的な守備」と「攻守の切り替えの速さ」

チームの仕上がり具合には、主将の藤本(右)も自画自賛 【写真提供:大宮アルディージャ】

 今季の大宮のテーマは「攻撃的な守備」と「攻守の切り替えの速さ」である。前線からのアグレッシブな守備をベースに、ボールを奪った後はショートカウンターで一気に敵ゴール前へ進出する。一定の位置にゾーンを敷き、侵入者を網にかける「待ちの守備」が従来の大宮のスタイル。それを180度転換し、自ら前へボールを奪いにいくのだ。
 三浦俊也元監督の退任以降、歴代の指揮官がトライし、成し遂げられずにいた攻撃サッカーへの転身。張監督も、昨シーズン終盤にはJ1生き残りを第一目標に、当初標榜(ひょうぼう)した攻撃サッカーを半ばあきらめ、「待ちの守備」へ切り替えざるを得なかった。今季は再チャレンジのシーズンとなる。

 相手ボールを自ら奪いにいくためには、前線からの連動したプレッシャーが不可欠だ。そのためには選手間の距離が適切に保たれなければならず、必然的に最終ラインの位置は高くなる。特に顕著なのが両サイドバック。これまでの大宮では考えられなかった、ボランチとほぼ同じ高さがノーマルラインになる。
 敵からボールを奪い攻撃に転じる際も、スタート地点の「高さ」がアドバンテージになる。縦パス1本で速攻を狙った昨季に対し、今季はよりサイドを起点にすることが要求されている。2トップ、両サイドハーフだけでなく、ボランチ、サイドバックが一気に駆け上がるカウンターは、今季の大宮の1つの見どころとなるだろう。「リスクはあるけど、動きを見せていくのが今年の大宮」(杉山新)と、新戦力は意欲満々だ。

 守備での破たんも見られない。「さいたまシティカップ」を含めた開幕までの練習試合のうち、最終ラインを主力組で固めた8試合(約600分)でわずかに1失点。それもPKによるものだ。「前線から中盤、最終ラインと、みんなで意思統一してアグレッシブに守備をしてるので、それで守備も堅くなっていると思う」(アン・ヨンハ)。攻撃的な狙いが、守備面でも奏功していると言える。

 むろん、必ずしも大宮ペースで進む試合ばかりではない。宮崎キャンプ中に行われたFC東京との練習試合では、前半45分間の主導権を完全に握られながら、無失点で切り抜けた。耐久力も健在である。「リズムが悪いのに同じように前線から取りにいくのではなく、いったん我慢して守備を固める」(深谷友基)といった応用力も兼ね備えつつある。
「失点が少ないのはいいことだけど、僕個人としてはうまくいき過ぎて、逆に怖い部分もある。もっと失点していろんな課題が生まれて、それに対してまたみんなで考えていけば、もっと連係を深くできることもある」(深谷)とはうれしい誤算か。だが当初、不安視された総入れ替えの守備陣も、固定したユニットとして連係を高めたことで、盤石となりつつある。

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著者プロフィール

1967年1月28日、埼玉県生まれ。93年、現在のWEB版「J's GOAL」の前身である試合速報テレホンサービス「J's GOAL」にて、試合リポーター兼ライターとして業界入り。2001年よりフリーランスとなりライターとして本格活動を開始、大宮アルディージャに密着し週刊サッカーマガジン(ベースボール・マガジン社)ほか専門誌等に寄稿している。

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