大宮、塚本とともに闘うシーズンの幕開け=上位進出へ臨戦態勢整う

土地将靖

得点力不足もコミュニケーションには不安なし

途中加入ながら昨年大黒柱となったラファエルには、その攻撃力に期待がかかる 【写真提供:大宮アルディージャ】

 もちろん、不安材料はある。その最たるものが得点力だ。水原三星戦では大量5得点をたたき出したが、その後の練習試合では、いい形で攻め入りながらなかなか得点が奪えないシーンも散見された。
「そう簡単にはいかない。1年を通してやっていく。日々の練習で正確性を高めていく」(張監督)と、指揮官も一朝一夕にはよくならないことは納得済み。途中加入ながら昨年大黒柱となったラファエルが、今季は準備段階からチームにいることでコンビネーションも高まるはず。まずはチャンスの数を増やすことで、得点そのものの数を増やしていくことが目標となる。

 内容的には押し込みながら、得点が奪えないまま相手に一発食らって敗れる、というのはよくある話。そんな試合が続くとチームの雰囲気が悪くなり、負の連鎖に陥ることも考えられるが、今季の大宮ではそれは想像しにくい。何より雰囲気が明るいのだ。
 昨季までは、練習でも聞こえてくるのはキャプテンの藤本主税の声だけ、ということもあった。今季は新加入の村上和弘や杉山がどんどん声を出すので、今まで遠慮がちだったほかの選手たちも引きずられるように声を出している。練習試合をピッチ横で見ていると、選手たちの声がうるさく感じられるほどだ。ピッチ外のことは定かではないが、少なくともグラウンド上については、コミュニケーション不足は無縁のようだ。

 もっとも、現時点ではそんなネガティブなことは考えなくてもいいだろう。「練習試合の結果も想像以上にいいし、シーズン前のこの時期としては期待の持てる内容」(藤本)とキャプテンも自画自賛。まずは開幕戦で昇格組のセレッソ大阪をたたき、開幕ダッシュといきたい。3月のリーグ戦4試合で結果が出れば、一気に勢いに乗ることができる。そうなれば、「目標」は「現実」へと変わっていくはずだ。

大宮を襲った衝撃

選手たちは闘病生活に入る塚本とともに今シーズンを闘う(写真は09年3月のもの) 【Photo:築田純/アフロスポーツ】

 2月27日、衝撃的な事実が公表された。大宮のDF塚本泰史が右大腿(だいたい)骨骨肉腫と診断され、この3月中に骨にある腫瘍の切除手術を受けることとなったのだ。「切除」とは、患部――すなわち、彼の武器である大きく落ちるフリーキックを生み出す右足の骨の一部を切り取るということ。切除部分を人工骨に置き換えることで、日常生活は不自由なく送れるようになるが、現在の医学水準においては現役続行が不可能となる。

 このつらい現実に向き合いながら、それでも塚本は「同じ病気の人たちや同じガンなどで戦う人たちに、少しでも勇気を与えられるように」と、自らの言葉で告白することを決意した。クラブは、塚本を選手登録したまま今シーズンを闘うこと、そして望む道へ進めるよう、全力でサポートすることを宣言した。塚本の勇気、強さとクラブの英断に、この場を借りて喝采(かっさい)を贈りたい。
 これから塚本は闘病生活に入る。塚本にとって何が一番の薬になるのか、チームメートたちは十分に分かっているはずだ。病魔と闘うのは塚本1人ではない。これは、大宮アルディージャとしての闘いだ。
 塚本とともに闘うシーズンが、いよいよ幕を開ける――。

<了>

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著者プロフィール

1967年1月28日、埼玉県生まれ。93年、現在のWEB版「J's GOAL」の前身である試合速報テレホンサービス「J's GOAL」にて、試合リポーター兼ライターとして業界入り。2001年よりフリーランスとなりライターとして本格活動を開始、大宮アルディージャに密着し週刊サッカーマガジン(ベースボール・マガジン社)ほか専門誌等に寄稿している。

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